過剰な価格競争によって、改めて問われる美容医療の質
前述のTV番組含め、テレビや雑誌など各種メディアでも美容医療がよく見られるようになったのは2000年代に入ってからです。その中でも大きかったのは、美容医療業界では大手のSクリニックさんの広告です。彼らが行った大規模広告が美容医療の認知につながる裾野を広げ、受診へのハードルを下げたのは事実です。
2000年代というのは、多くの技術が日本に入ってきて、美容医療業界そのものが大きく様変わりした時期でもありました。埋没法による二重まぶたの施術が「プチ整形」と呼ばれて流行したのも、美容医療へのハードルを下げることに大きく貢献しましたし、ヒアルロン酸、ボツリヌストキシンといった薬剤もこの時期に日本に入ってきました。
レーザー脱毛やヒアルロン酸注射、ボツリヌストキシン注射などは、手術(切開)を伴わない美容医療です。1990年代以前は美容医療=手術でしたが、手術の必要のない施術の普及も、「プチ整形」というキャッチーな呼称とともに、美容医療への認識を変える一助となりました。
ただ、そうして業界全体の認知度が上昇したことで生まれたのは、プラスの側面だけではありません。そこで生まれたマイナスの側面の一つが、過剰な価格競争です。
例えば二重まぶたの埋没法一つ取っても、私が美容医療業に転職した1990年代当時、所属していた大手美容クリニックでは至って良心的な価格に設定していました。専門的な施術になるので、一般的な価値基準からすると安いとはいえない金額かもしれませんが、クオリティを保証するうえでは十分リーズナブルな価格だったと思います。
一方で2000年代からさまざまなクリニックが全国に増えていき、顧客の奪い合いが激しくなりました。患者様を引き寄せるために最もシンプルで効果的なのは、競争相手より価格を下げることです。後発のクリニックが先行者に追い着き追い越すために価格を下げる。すると先行者も対抗して下げる。こうした一般競争が美容医療界でも行われ、値下げ競争が勃発し、中にはどうやっても採算が取れないような価格で提供するクリニックも現れました。
しかし値下げ競争には限界があります。価格が底を打つと、今度はそれぞれの付加価値や理由をつけながら、価格を上げていく競争に転じました。そうなるとまた、品質が伴わないのに高額で展開するクリニックが現れたりして、業界が混乱していきました。業界が信頼されにくくなってしまった、一つの原因ともいえます。
鎌倉 達郎
聖心美容クリニック
統括院長
