詐欺被害のニュースに触れるたび、「どうして騙されるんだろう？」と疑問に思う人は少なくないでしょう。しかし、「自分だけは大丈夫」という自信こそが危険な落とし穴になりかねません。甘い誘惑に、人は驚くほど脆いからです。行動経済学を悪用する詐欺師たちは、あなたの心の隙を緻密に突き、気づけば全財産を奪い去る巧妙な手口で迫ってきます。本記事ではAさんの事例とともに、LINEを使った特殊詐欺について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
（※写真はイメージです／PIXTA）
人生逆転を信じて早期退職するが…
「もっと増やしたい」
成功体験に完全に魅了されたAさんは、さらなる飛躍を目指しました。両親が亡くなった際に相続した土地を担保に1,000万円の資金を確保。これなら1億円も夢ではないし、すぐに返済できると確信します。「投資で増やしていままでの生活を一新するぞ」と意気揚々と胸を膨らませました。気分は資産1億円達成の富裕層。勤めていた会社を早期退職し、念願のFIRE※生活を送ることを決断したのです。
※FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、「経済的自立と早期リタイア」のことをいいます。FIREは、投資元本を用意して、その運用益で生活するスタイルです。
しかし、いざFIREしたものの、Aさんの資産額は本来FIREするには遠くおよばず、さらにずっと家にいる生活はAさんの社交的な性格には合わないものでした。社会とのつながりがなくなってしまうのではないかと、不安に襲われたAさんは、サイドFIRE※に切り替えようと考えます。
※サイドFIREとは、資産運用による不労所得とアルバイトなどでの労働収入の2つで生活する考え方です。
そもそも、転職の話はどうなったのか。Aさんがグループの担当者に尋ねると、驚くべき答えが返ってきました。
「いま、Aさんに合った求職がないのです。ただ、Aさんは転職しなくても生活できるようになりますよ」
投資は続けるにしても、世間から取り残されるのではないかとAさんの不安は募るばかりでした。
夢から覚めたワケ
そんなAさんの異変に気づいたのは、学生時代からの友人でした。以前は頻繁にグループLINEに書き込みをしていたAさんからの連絡が途絶えたことを心配し、連絡をしてきたのです。Aさんは友人にことの次第を打ち明けました。すると、友人は耳を疑うような言葉を口にします。「それって、SNS型投資詐欺じゃないよね？」
Aさんは、まったく考えてもいなかった友人の言葉に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。急いでグループLINEを開いてみると、自分はグループから削除され、退会させられていることに気づきます。
