大切な人への想いを託す生命保険。しかし、加入者本人にとって「万一の備え」のつもりでも保障内容を正しく理解していなければかえって誤解や混乱を生む可能性もあります。本記事ではAさんの事例とともに、生命保険の注意点について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が深掘りします。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
長生きしても迷惑がかかる…末期癌を隠しひっそり生きた独身伯母の贈り物。今際の介護を担った45歳姪〈生命保険金1,000万円〉をもらうはずが…くしゃくしゃの「30年前の保険証券」が告げる、理不尽な現実【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

おひとり様、孤独を抱えた伯母

Aさん(45歳)は独身の会社員です。母方の伯母のことを、亡くなるまで献身的に身の回りの世話をしていました。

 

結婚していた伯母は子どもに恵まれず、夫から「子どもが産めないのであれば別れる」と告げられ離婚。それ以来おひとり様として暮らしていました。離婚当時、伯母は自分の身体に問題があるせいで子どもができなかったのだと、深く悲しんでいたといいます。Aさんは、伯母がそうした経緯から生涯独身を選んだと、母から伝え聞いていました。

 

伯母は癌を患っていましたが、「長生きしても妹に迷惑がかかる」と考え、手術を受けずにいたとのことです。そのため、周囲が異変に気づいたときにはすでに末期状態で、余命宣告を受けていました。

 

Aさんの母も姉である伯母のことを心配していましたが、自身も高齢となり、夫の介護を優先しなければならず、伯母の世話までは手が回らなくなっていました。そのため、Aさんが伯母の世話を引き継ぐ形になりました。あとになってわかったことですが、伯母は認知症も発症していたようです。

 

伯母は離婚後も働き続けていたため、日常生活は年金で賄えていました。偶数月に年金が振り込まれ、手元に現金が残っているときには、「自分が死んでもお金を残す子どもがいないから」といって、Aさんにお小遣いをくれることもありました。

死んだら1,000万円あげる

ある日、伯母から「加入している保険から1,000万円受け取れる。面倒をかけてしまったお礼に、私が死んだらAに受け取ってほしい」と告げられます。受取人は当初母にしていましたが、身の回りの世話をしているAさんに変更していたようです。伯母は「お母さん(妹)には内緒ね」と笑って話していました。

 

その後、伯母の病状はさらに悪化し、入院することになりました。Aさんは入院費など、日常生活費以上にかかる費用を負担しながら仕事を続けていました。伯母が入院した同時期に、Aさんは社内で異動があり、引き継ぎなどで多忙を極めていたAさんは保険金のことがすっかり頭から抜け落ちていたといいます。

 

伯母は「延命治療はしないでほしい」と希望しており、入院から2週間後、80歳と1ヵ月で亡くなりました。

 

身内で葬儀を終え、伯母が暮らしていた賃貸アパートは家賃がかさむため、急いで引き払うことに。Aさんは段ボールに荷物を詰め、自宅へと運び出していきました。

 

アパートを引き払う日、次々と段ボールに詰めていたAさんはふと押し入れの中からくしゃくしゃになった紙を見つけます。部屋をきちんと整理していた伯母にしては珍しいことだと思いながら紙を広げてみると、それはなんと30年前の保険証券だったのです。

 

その瞬間、Aさんは伯母が語っていた「1,000万円」の話を思い出します。保険証券には、死亡保険金額が確かに1,000万円と記載されていました。