詐欺被害のニュースに触れるたび、「どうして騙されるんだろう?」と疑問に思う人は少なくないでしょう。しかし、「自分だけは大丈夫」という自信こそが危険な落とし穴になりかねません。甘い誘惑に、人は驚くほど脆いからです。行動経済学を悪用する詐欺師たちは、あなたの心の隙を緻密に突き、気づけば全財産を奪い去る巧妙な手口で迫ってきます。本記事ではAさんの事例とともに、LINEを使った特殊詐欺について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
「資産1億円」夢のFIRE実現間近の50歳サラリーマン、早期退職も…2ヵ月後、元職場へ懺悔の復職直談判。人生を壊した「LINE通知」の正体【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

仕事を辞めたい、でも辞められない…

Aさんは50歳の独身男性。製造業に勤めています。明るく、社交的な性格の持ち主ですが、新卒で社会に出た時期は、バブル崩壊後の就職氷河期。Aさんのような性格でも、心が折れそうになるほど厳しい時代だったといいます。希望とは違う職種ですが、やっとの思いで就職した製造業で、以来ずっと真面目に努力を重ねてきました。

 

20代のころは目の前の仕事に必死でしたが、30代に差し掛かり落ち着いてくると、代わり映えのしない日々に空虚な思いを感じるようになりました。しかし、新卒での就活の苦痛を再び経験するのが怖く、転職への一歩を踏み出す勇気はありませんでした。就職して20年が経過した40代。黙々と作業するこの仕事を本当に定年まで続けるのだろうか、このままでいいのだろうか、そんな自問自答が日に日に募っていきました。

 

すべてはLINEから始まった

そんなAさんの唯一の楽しみは、グループLINE。スマートフォンにはLINE通知の件数がいつもたくさん表示されています。いろんなグループに所属し、気の置けない会話を交わすことが、日々のささやかな喜びだったのです。

 

いつもどおり仕事を終え、まずはLINEをチェック。すると、あるグループの書き込みに「転職を考える交流会」の参加者募集のお知らせをみつけます。こんなグループに入っていたかな?と思いつつ、漠然と転職したいと考えていたAさんにとってはちょうどよいタイミングでした。Aさんは早速、参加希望のメッセージを書き込みました。