詐欺被害のニュースに触れるたび、「どうして騙されるんだろう?」と疑問に思う人は少なくないでしょう。しかし、「自分だけは大丈夫」という自信こそが危険な落とし穴になりかねません。甘い誘惑に、人は驚くほど脆いからです。行動経済学を悪用する詐欺師たちは、あなたの心の隙を緻密に突き、気づけば全財産を奪い去る巧妙な手口で迫ってきます。本記事ではAさんの事例とともに、LINEを使った特殊詐欺について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
「資産1億円」夢のFIRE実現間近の50歳サラリーマン、早期退職も…2ヵ月後、元職場へ懺悔の復職直談判。人生を壊した「LINE通知」の正体【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

華やかな交流会で抱いた「強烈な劣等感」

グループLINEの運営者からは履歴書などの提出を求められ、いわれるがままファイルを添付して送信。その間、ほかの参加者からは「転職に成功した!」といった喜びの書き込みが次々と投稿されていました。今後もグループに参加し続けるには会員登録が必要で、入会金10万円を求められます。Aさんは先行投資だと思えばと、指定口座に振り込みます。

 

まもなく、今度は「ビジネス交流会」という投資に関する情報収集ができる集まりに参加してみないかと誘われました。投資初心者のAさんでしたが、興味本位で参加することに。交流会では、すでに投資で成功しているという人たちが活き活きと楽しそうに経験談を話していました。彼らはAさんも憧れていた大手企業に勤めているようで、身なりや持ち物もブランド品ばかり。自分とはかけ離れた華やかな生活を送っているようにみえました。

 

いままでなにもしてこなかった自分が取り残されているように感じたAさん。「自分も彼らと同じ立場になって、あの輪の中で輝けたらな」そんな思いが押し寄せてきました。しかしAさんは、劣等感からくる居心地の悪さに耐えかね、会場の隅っこにいました。そろそろ帰ろうかと思いはじめたころ、グループ内で「先生」と呼ばれる人物がAさんに近づいてきました。「私の教えに従って投資を始めれば、彼らのように投資で稼ぐことは簡単ですよ」そう、声を掛けてきたのです。

 

Aさんは、先生の勧めに従い、投資を始めることにしました。少ない給料から長年かけ、少しずつ貯めてきたお金でリターンのよいと教えてもらった商品を購入しました。するとどうでしょう。投資専用サイトに30万円を送金したところ、わずかな期間で60万円になりました。

 

先生からは「あなたは投資に向いている」といわれ、有頂天に。「就職活動時から恵まれなかった人生だったけど、俺には投資の才能があったのか。こんなに簡単ならもっと早くやればよかった。さらに成功したら、みんなに自慢できるだろうな。それまでは内緒にしておこう」そう心に決め、いままで貯めた資産500万円をすべてつぎこみます。すると驚くべきことに、気づけば資産は3,000万円にまで膨れ上がっていたのです。