親からの援助で住宅ローン負担が軽かったり、孫の教育費を支援してもらえたり。恵まれた環境にいると、つい将来への備えを楽観視してしまいがちです。しかし、その甘えが許されるのは、親が元気なあいだだけかもしれません。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例とともに、「恵まれた相続」に潜む落とし穴について解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
実家が太いせいで…年収450万円・59歳サラリーマンが直面した〈ボーナスは固定資産税に〉〈退職金は相続税に〉消えるという現実【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

親は裕福な経営者、子は平凡なサラリーマン

Aさんは、中小企業を経営する裕福な両親のもとで育ちました。Aさんと弟は大学卒業後、一般企業に就職。両親は息子たちに自分たちの会社を継いでほしかったようでしたが、息子たちがそれぞれ希望する職業とはかけ離れていたため、引退する際には、右腕となって働いてくれた従業員に会社を譲りました。

 

中小企業ではあるものの、両親は一代でそれなりに成功し、70歳で引退後も、会長としての報酬と年金で年額600万円の収入があります。さらに現預金や株、不動産なども保有。一般的にみて、裕福な老後を送っています。

 

Aさんには子どもが1人。両親にとっては初孫ということもあり、教育費の援助や入学式等にはお祝いなど、なにかと気にかけてもらっていました。住宅購入を考えた際も、「うちの土地に建てれば安く済むだろう」と、父名義の土地に家を建てさせてもらい、少ない借入額(1,500万円)で立派なマイホームを持つことができました。親が裕福であることの経済的な恩恵は、Aさんにとって大きな助けとなっていたのです。

 

その後も、実家に遊びに行けば孫にお小遣いをくれたり、お寿司や焼肉など、美味しい食事をご馳走になったり。季節の変わり目には、デパートで子どもの洋服を購入してもらうこともあり、成長期の子供服代のかかることが少なく、家計はとても助かっていました。

子自身の暮らしの現実

Aさん自身も子どものために資産形成しようと努力しています。しかし、近年続く物価上昇に対し、Aさんの給与の伸びは追いついていません。厚生労働省の2024(令和6年)年版労働経済の分析でも、2023年の現金給与総額は3年連続で増加、名目賃金は24ヵ月連続の増加となりましたが、物価上昇を加味した実質賃金は21ヵ月連続で減少しています。つまり、多くの人が「暮らしがよくなった」と感じられない状況です。Aさんも、その一人でした。

 

Aさんの給与は定期昇給してはいるものの、年収450万円です。それでも、両親からの援助があるおかげで、Aさん一家はこれまでどおりの生活レベルを維持できていたのです。