10代の子どもは、大人からすれば「嘘をつく」「人の気持がわからない」「なぜかトラブルばかり起こす」という振る舞いをすることがあります。精神的な問題を抱えているわけではないのに、周りを困らせてしまう。その理由は、彼らが物事を理解する方法、つまり「ものの見方」が、私たちとは少し違うからだと、ロバート・キーガン氏は言います。本記事では、同氏著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、社会に適合できない若者たちの事例から「生きづらさ」を解決するためのヒントを探ります。
「嘘をつく」「トラブルを起こす」若者と向き合うときに、大人たちが本当に見落としていること【ハーバード大学名誉教授が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

一部の10代が社会に適合できない本当の理由

極端な例で考えてみよう。臨床的には「ソシオパス(社会病質人格)」あるいは「反社会的気質」を持つ人として、一般には「詐欺師」「ぺてん師」「不良」などと表現される若者の例である(※1)。そういう人のことを、かつては「サイコパス」と呼んでいたが、その呼び方は「精神異常者」や「偏執症患者」と混同されがちで、「サムの息子」や「ジェフリー・ダーマー」といった連続殺人鬼と同様であるかのような誤ったイメージを与えかねなかった。

 

しかし、ソシオパスは精神障害ではないし、殺人を犯すこともまずない。むしろ、自分を愛してくれている人の心を深く傷つけたり、家族に車のカギやクレジットカードを枕の下に置いて眠らなければと思わせたり、見るも無惨な破壊の跡を修理するために両親に家の二番抵当ローン(ホームエクイティローン)を組ませたりすることのほうが多い。つまり、ティーンエイジャーに対する社会からの期待をことごとく裏切る、そういう人々である。

 

ただ、専門家なら頷くにちがいないが、彼らのことは今もまだ詳しくはわかっていない。このテーマの教科書的な資料の1つに、ハーヴェイ・クレックレーが書いた的確かつ丁寧なきわめて長い観察記録がある(※2)。その終盤に、特に的を射た表現がある。このような人たちは、「人間の通常の経験に対する意味づけが、通常と違う」。今から50年以上前にクレックレーを当惑させた事実は、今日もなお謎のままである。

 

だが、ソシオパスの心理においてほかにどんなことが起きているとしても、彼らの意味づけの形態(フォーム)を調べると、必ずと言っていいほど第2次元のマインドの特徴が見られる。

信頼を逆手に取るソシオパスの論理

ある裁判官が、目の前に立つ若者にこう尋ねた「判決を下す前に、ぜひ聞いておきたいことがある。きみは、きみを深く信頼している人たちから、なぜ盗みを働けるのか」。すると若者は率直に答えた「なぜって裁判官、信頼してくれていない人から盗むのは、難しいからです」。

 

また、別の裁判官の前には、レストランで無銭飲食を繰り返したという若者が立った。浮かない顔の若者に、裁判官は動機を探ろうとして尋ねた「教えてくれないか。一体どうしたというのか。つまり、なぜ無銭飲食を繰り返すのか」。若者は少し考え、それから真面目な顔で答えた「そうですね、ぼくがレストランに入って注文するのは、お腹が空いているからです。そしてぼくがお金を払わないのは、お金を持っていないからです」。

 

裁判官たちはおそらく、心の奥底の状態を語ってほしい、できれば内面の葛藤を、いや少なくとも自己を省察した結果としての言葉くらいは聞きたいと思っていただろう。なのにそういう言葉を聞けなかったのは、「内省」を内なる対話について述べることだと位置づけるようには「自己」が意味構築されていなかったからかもしれない。

 

内省をそのように経験・表現する心理状態は、自己のなかで複数の考えが調整されて生じる。この若者たちが第2次元のマインドによって制約を受けていたなら、「自己省察」は行動を順を追って述べるだけになり、それを裁判官たちは聞いたのである。