10代の子どもは、大人からすれば「嘘をつく」「人の気持がわからない」「なぜかトラブルばかり起こす」という振る舞いをすることがあります。精神的な問題を抱えているわけではないのに、周りを困らせてしまう。その理由は、彼らが物事を理解する方法、つまり「ものの見方」が、私たちとは少し違うからだと、ロバート・キーガン氏は言います。本記事では、同氏著『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版)より、社会に適合できない若者たちの事例から「生きづらさ」を解決するためのヒントを探ります。
「嘘をつく」「トラブルを起こす」若者と向き合うときに、大人たちが本当に見落としていること【ハーバード大学名誉教授が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

他者の視点を理解できないソシオパスの「思考の限界」

自分自身のものの見方を構築したり、他者は他者自身のものの見方を構築していることを認識したりはできるが、一方で、両者のものの見方を一定の関係に整えたり、自分のものの見方という観点からだけでなく相手のものの見方との関係という観点からも自分や相手の存在を意味構成したりすることはできない――このように、できることとできないことが同時に起きているために、ソシオパスは、自分の目標と目的の追求にばかり目を向けているにもかかわらず、言いたいことを汲んでもらえているという印象を与えるくらいには他者を考慮できる。

 

そうでなければ、他者はソシオパスの行動を自己中心的だ、無神経だ、人の善意につけ込んでいる、あるいは不誠実だとさえみなすだろう。

 

認知的な観点では、臨床医曰く、ソシオパスは知能は高いが、同時に哀れなほど幼い場合が少なくないという。恐ろしく込み入った企みを考えたり多様な情報を一度に記憶したりできるのに、長期的な計画を立てることはできないのだ。どの文献を見ても、臨床医はソシオパスの思考について、異常ではあるが、精神病を患っているわけではなく、通常の意味での思考障害もないと述べている。

 

しかしながら、ソシオパスの「通常とは違う意味での思考障害」が本質的に、「持続的カテゴリ」の意識という次元の思考であり、認知発達理論でいうところの「具体的操作」としてあらわれているのだとしたらどうだろう。物事の大小や量を比較して序列を判断したり分類できたりする具体的操作の思考は「持続的カテゴリ」の意識に支配されており、複数の情報を結びつけることはできるが、現実のものというカテゴリを、可能性という「持続的カテゴリを超えた」意識の領域――長期的な計画やパターンや一般化の構築のために必要なもの――の下位に置くことはできない。

 

知能の高いソシオパスもなかにはいるだろうが、やはりこの知性の(理解の)形態(フォーム)についてもっと詳細に研究する必要があるだろう。

 

編集注(参考は書籍の52-60ページ)

「持続的カテゴリ」

本書籍p.52でキーガンが提唱している「精神的意味構築」を行う次元のマインド(第2次元マインド)の呼称。あらゆるものごとを、ある特質を含む現象として意味整理する能力のことを指す。ものごとは「主体が知覚した姿」から変換され、クラス(集合)やカテゴリなど、1つの精神的なまとまり(知覚とは無関係に恒常的に働くルール)に沿って配置される。

 

共通する意味構築の原理(前述の「次元のマインド」)が作用して、特に「具体的な世界」「(他人の)独自の考え方」「特質を含む自己」など、「具体的なもの」を意味構成する力である、とキーガンは述べている。