子の将来を願い、負担を顧みず、多額を投じて子を東京の大学に進学させる親。しかし、その後のキャリア選択のギャップが、親世代の経済的基盤、ひいては老後計画をも揺るがすことがあるようです。
まだ、ここにいていいかな…帰省から3日、大学4年・次女の「まさかの告白」に激震。「月収55万円」53歳の父、「東京なんて行かせるんじゃなかった」と怒涛の後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

若者の「働きたくない」本音と、親世代の老後リスク

美月さんの決断には、もちろん理由があります。SNSでの発信を続けながら、動画配信サイトで月に数万~10万円程度の収入を得ており、そこで「趣味じゃない。きちんと仕事にしていきたい」という思いが強くなったというのです。

 

文部科学省・厚生労働省『大学等卒業者及び高校卒業者の就職状況調査』によると、2023年度に大学を卒業した学生の就職希望率は74.8%。残り4分の1の学生は、進学や留学など、「就職をしない」という決断をしています。大学に進学しながらも「就職をしない」という決断は、珍しいことではないといえます。

 

ただ「動画配信を仕事にしていきたい」というのは、「大学まで行かせてもらったなら就職するのが当たり前」というキャリア観をもっている、今どきの大学生の親としては衝撃的かもしれません。

 

さらにソニー生命株式会社『子どもの教育資金に関する調査2025』によると、大学生等の親の77.4%が「子どもの教育費の負担が重いと感じる」というなか、大学生の子どもからの「私、就職しないから」の決意表明は、非常にショックであることは想像に難しくないでしょう。

 

さらに井上さんが心配したのは、「この子がこのまま働かずに実家にいたら、老後資金の積み立てどころじゃない」という懸念。子どもが大学を卒業し就職をしたら教育費は目途がつき、あとは住宅ローンの完済と、夫婦の老後を見据えて資産形成を加速――というのがお決まりのパターン。しかし子どもが自立しないとなると、その計画が根底から崩れていってしまいます。

 

「東京なんて行かせるんじゃなかった――」

 

そう悔やむ親は少なくありません。特に地方在住の家庭では、首都圏の大学へ通わせることで就職・収入のチャンスを広げようとする一方で、子どもの「就職しない」というリスクに対し準備などしていないでしょう。

 

結局、美月さんは東京のアパートを引き払うことを決めました。卒業単位はすでに満たしており、あとは卒論を仕上げるだけで大学に行くことはほとんどないというのが理由のひとつ。そして「もう少し、自分のやりたいことを考えたい」という彼女に、隆さんはただ「一度だけ、ちゃんと話をしよう」と語りかけました。

 

家庭の問題として片付けられがちな「子どもの就職拒否」ですが、これは同時に、親の老後をも左右する経済問題という側面も。美月さんの場合は「3年間」という期限を決めて、挑戦を続けているといいます。

 

[参考資料]

日本学生支援機構『令和4年度学生生活調査報告』

文部科学省・厚生労働省『大学等卒業者及び高校卒業者の就職状況調査』

ソニー生命株式会社『子どもの教育資金に関する調査2025』