定年まであとわずかとなり、長年の勤労の対価である退職金を受け取り、思い描いた第二の人生へ踏み出す――。多くの人がそう願う未来は、本当に確約されているのでしょうか。
定年間近の大惨事…〈月収45万円〉59歳サラリーマン、60歳誕生日まで指折りで数えていたが、まさか〈退職金ゼロ〉。「夫婦でハワイ旅行」も夢の彼方へ「私、何か悪いことしましたか?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年直前で訪れた想定外…泡と消えた退職金

「定年退職後は夫婦でゆっくりと海外旅行でも――」

 

そう考える人は少なくありません。長年、会社に勤め、まじめに働いてきたからこそ、穏やかな第二の人生を送る権利があると信じて疑わないものではないでしょうか。

 

地元の中小製造業に40年間勤務してきた佐々木修さん(仮名・59歳)は、まさにそんな1人でした。月収は約45万円。年功序列で少しずつ給与が上がってきた典型的な会社員人生です。老後を見据えてコツコツと貯蓄に励み、退職金の一部で住宅ローンを払い終える。地味ではあるけど、堅実な人生を歩んできたといいます。

 

「あと1年頑張れば定年ですからね。夫婦で旅行でもと考えていましたし、少しは自由な時間も持てるかなと」

 

妻の裕子さん(仮名・57歳)とも、60歳になったらハワイへ行こうと、旅行パンフレットをもらってきては思いを馳せていたといいます。しかし、退職を目前に控えたある日、思いもよらない知らせが届きました。会社が、自己破産を申請したというのです。

退職金制度があっても「支払われる」とは限らない

佐々木さんにとっては突然の出来事でしたが、会社側には以前から資金繰りの悪化があったようです。設備投資の失敗、受注の減少、経営陣の交代――すでに数年前から希望退職を募るなど、兆しはあったといいます。しかし、佐々木さんのように「あと1年」を信じて踏みとどまっていた社員も少なくありませんでした。

 

そして破産手続きの開始。会社の退職金制度は就業規則に明記されていましたが、実際の支払いは「破産財団に資金が残っていれば」という条件付き。佐々木さんの退職金も、事実上ゼロとなってしまいました。

 

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、退職金制度がある企業の割合は、従業員1,000人以上の企業で90.1%、30~99人規模では70.1%と、規模によって差があります。また、制度があっても「退職時に会社の業績や本人の勤務成績により支給額が変動する」ケースも珍しくありません。

 

「制度がある=退職金が出る」と信じて疑わない人は、意外に多いのではないでしょうか。

 

【企業規模別・平均退職金】

◆大学・大学院卒(管理・事務・技術職)

従業員1,000人以上:2,007万円

従業員300~999人:1,618万円

従業員100~299人:1,295万円

従業員30~99人:1,162万円

◆高校卒(管理・事務・技術職)

従業員1,000人以上:1,899万円

従業員300~999人:1,232万円

従業員100~299人:985万円

従業員30~99人:731万円

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』