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地方・中流家庭には重すぎる「首都圏進学」
「私、就職活動してないんだよね」
大学4年生の夏、帰省から3日目に発せられたひと言は、静かな衝撃となって家庭内に広がりました。東京都内の私立大学に通う井上美月さん(仮名・22歳)は、地方に住む両親のもとへ久しぶりに戻ってきたばかり。3日間はテレビを見たり、近況を聞いたりと穏やかに過ごしていたものの、家族そろっての夕食の席で、美月さんは口を開きました。
その内容は、「就職活動をしていない」という事実と、「東京には戻らず、しばらく地元で過ごしたい」という意向でした。父・隆さん(仮名・53歳)は「彼女を東京に出すために、いくら使ったか。ようやく報われると思っていた矢先に……」と怒りというよりは、空虚な気持ちになったといいます。
井上家は地方都市に暮らす、いわゆる中流の家庭です。父・隆さんは地元の製造業に勤務し、月収は55万円ほど。母・真由さん(仮名・50歳)はパート勤務で、家計の足しにしています。
美月さんが東京の大学に進学する際、「奨学金は自分で返す、仕送りはいらない」と話していたものの、結果的に月5万円の仕送りと年2回、帰省の際の交通費支援は欠かせなくなりました。加えて、入学時の学費・初期費用、生活備品などを含めると、4年間で家計から出ていったお金はおよそ800万円近くにのぼります。
日本学生支援機構『令和4年度学生生活調査報告』によると、東京圏の大学に通う学生の支出(学費+生活費)は、自宅生の場合、年間117万5,700円。一方、親元を離れアパート等で暮らす学生の場合は192万3,900円。地方からの進学には、想像以上にコストがかかります。
それでも「子どもの将来のためにプラスになる」という親心で、自分たちの生活は二の次に、子どもたちの未来に投資をするわけです。