初任給30万円超えなどと、何とも羨ましいニュースの一方で、生活困窮に直面する、都市に暮らす若者たち。表面からは見えにくいその深刻さが、ある日突然、形となって現れることも。働いていても生活が成り立たない、収入があっても未来が見えない――そんな若者の行き着く先は?
正社員だったのに「所持金127円」…29歳・サラリーマン、「手取り月14万円」の限界。家も仕事も失い、さまよう先に見つけた「意外すぎる希望の場所」 (※写真はイメージです/PIXTA)

携帯も止まり、所持金127円。途方に暮れるなか辿り着いたのは…

退職後の収入はゼロ、家賃は支払えず、学生時代から住んでいたアパートを出ることになりました。実家とは折り合いが悪く、「今さら頼るなんて……」。吉田さんはリュックひとつを背負い、街中をさまようようになります。所持金は、わずか127円。お金がなく、携帯電話も解約。いよいよ連絡手段も失いました。

 

「まず何をすればいいのかすら、わかりませんでした。役所に行くにも、何を調べればいいのか、どう聞けばいいのか……」

 

そんななか、偶然通りかかった地域のコミュニティセンターの入り口に「どなたでもご自由にご利用ください。Wi-Fi利用可能」と書かれた貼り紙が目に入りました。中に入ってみると、冷暖房の効いたスペースに、テーブルと椅子、パソコンも数台設置されていました。無料Wi-Fiが使える環境のなかで、パソコンを使い、職探しや支援制度の情報収集ができることに気づきます。

 

総務省の『情報通信白書(令和5年版)』によると、20〜30代の若年層でも、収入や雇用形態により情報格差(デジタルデバイド)を経験するケースが増えています。携帯電話が止まることで、支援情報にもアクセスできなくなるという問題は、特に低所得層で深刻です。

 

吉田さんは、ここでハローワークのサイトにアクセスし、再就職支援制度や住居確保給付金についての情報を得ることができました。生活再建に向けた第一歩は、意外にも「誰でも入れる公共の空間」から始まったのです。

 

「スマホがないと、本当に何もできない時代なんだと痛感しました。でも、あのコミュニティセンターがなければ、情報にすらたどり着けなかった」

 

現在、吉田さんは新しい住まい、新しい職場で、新しい一歩を踏み出しています。

 

「あんなことになる前に、思い切って仕事を辞めて動き出していればよかった。忙しく、お金もない状況のなかで、視野が極端に狭くなっていました」

 

吉田さんの現在の月収は手取り22万円。未経験の仕事で毎日四苦八苦しているといいますが、以前の仕事よりも俄然楽しいといいます。

 

内閣府『国民生活に関する世論調査(令和6年8月調査)』によると18~29歳で「現在の生活に不満」と回答したのは35.9%。さらに「今の給与に不満」と回答したのは66.9%にのぼりました。また20.0%が「暮らし向きが低下している」と答えています。

 

正社員でありながら生活困窮――なかなかスポットライトが当たらない人たちの悲鳴が聞こえてきます。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編(令和6年)平均』

総務省『情報通信白書(令和5年版)』

内閣府『国民生活に関する世論調査(令和6年8月調査)』