▼帝都、大商店街
ワイワイ……ガヤガヤ……
女騎士「うむ。よく似合っているぞ! いつか恩返しをしたいと思っていたのだ。遠慮なくプレゼントを受け取ってほしい」
黒エルフ「……」
女騎士「で、どれにする? 好きなのを買ってやろう!」
黒エルフ「気持ちはありがたく頂戴するわ。でも──」
黒エルフ「でも……ここ、防具屋よ!?」
女騎士「初心者用から高級装備まで素晴らしい品揃えだ! 何か問題が?」
黒エルフ「問題だらけよ! なんであたしが重たい鎧を着ないといけないわけ?」
女騎士「ふむ。たしかにスチールアーマーは重たいな。こっちのミスリルプレートならもっと軽くて模様も美しく……」
黒エルフ「ちっがーう!!」
女騎士「?」
黒エルフ「正装に鎧を選ぶバカがどこにいるのよ!」
女騎士「なっ! 鎧は騎士の正装だぞ!?」
黒エルフ「あたしは騎士じゃないわ!」
女騎士「騎士でないなら何なのだ!」
黒エルフ「あんたの奴隷よ!」
女騎士「そうだったのだ……」シュン
黒エルフ「いや、そこで落ち込まないでよ。やりにくい」
女騎士「落ち込んでなどいないが……うぅ……」
黒エルフ「ああもう、面倒くさいわね。ていうか、まさかあんた、その汚い鎧で王さまに謁見するつもりじゃないでしょうね」
女騎士「なっ、汚い鎧とは失敬な! この傷は竜鱗峠を突破したときのもの、こっちの凹みは副都の戦いで──」
黒エルフ「ハァ……。もういいわ、あたしが服を選んであげる」
女騎士「お前が? 装備品の選び方を知っているのか?」
黒エルフ「たしか国王は12歳だったわね。それなら、いい装備があるわ」
女騎士「そんな装備が? 詳しく教えてくれ!」
黒エルフ「童貞を殺す服よ」
女騎士「童貞を殺す服」
女騎士「攻撃力は高そうだな」
黒エルフ「本来は防御力を重視した装備だけど、相手によっては一撃必殺の威力よ」
▼婦人服店
女騎士「これが童貞を殺す服か。初めて着たぞ!」
黒エルフ「金髪碧眼のあんたに憎たらしいほど似合うわね」
女騎士「何を言う。お前にもよく似合っているぞ」
黒エルフ「そ、そんなこと……///」
女騎士「身軽で動きやすい装備だ」スチャ
黒エルフ「その格好で帯刀するな」
店員 アリガトウゴザイマシター
黒エルフ「あとは髪型ね。あんた、毛先がボサボサだけど、誰に切ってもらったの?」
女騎士「自分だ。伸びてきたな~って感じたら、わが愛剣デュランダルで、こう……サクッと」
黒エルフ「デュランダルって、あの魔剣の!?」
女騎士「ダメか?」
黒エルフ「ダメよ!」
???「す、すみません……。理髪をお求めではありませんか……?」
黒エルフ「何か用? キャッチセールスならあっち行って」ギロッ
下女「申し訳ありません。ただ、お2人の会話が聞こえてしまったんです」
女騎士「ふむ。それで?」
下女「じつはアタシ、向こうの角の外科医院の女中をしてまして……ヒヒヒ……」
黒エルフ「外科医院ねえ……」
下女「ヒヒッ……うちの外科医院は、とくにご婦人がたの理髪が得意でございます。それこそ瀉血や怪我の治療よりも、女性の髪を美しく仕上げるのが専門というほどでして……」
黒エルフ「なんか怪しいわね~。外科治療もできないのに髪が切れるの?」
下女「も、もちろんでございます……ヒヒヒッ」
女騎士「たしかに、この国では髪を切るのは外科医の仕事だ。しかし、華国や和国には、髪を切ったり結ったりする専門の職人がいると聞く。一度、その医院を覗いてみようではないか」
下女「あ、あ、ありがとうございますっ!」
黒エルフ「ええ~、あんまり気乗りしないんだけど~」ぶーぶー
下女「じ、じつはアタシは田舎から出てきたばかりで、ま、まだハサミを持たせてもらえないのです。ならばせめて客の呼び込みをしてこいと、ご主人様に言いつけられまして……」
女騎士「どちらの出身だ?」
下女「北部の農村です。飢饉が起きまして、帝都に出てきました……」
女騎士「ううっ、苦労したのだな! わかった、私たちをお前の病院に案内してくれ!」