カキカキ……
黒エルフ「今までの話をまとめるとこうなるわ」
老練工房「ほう、小切手の取引を帳簿につけるときは、現金または当座預金の勘定科目を使うのか。たとえば『小切手』という勘定科目を使ってもよさそうなもんだが……?」
黒エルフ「帳簿のつけ方もついでに説明するわね」
カキカキ……
黒エルフ「たとえば関所の通行料を小切手で支払った場合は、こんな仕訳になるわ」
老練工房「関所の通行料って旅費交通費なんだな」
女騎士「うむ。有料道路の利用料は旅費交通費になる」
老練工房「有料道路」
工房長「うちの工房では、商品の代金として小切手を受け取ることがあります」
黒エルフ「その場合は、こんな仕訳ね」
老練工房「へえ、『現金』の勘定科目で処理しちまうのか」
女騎士「言っただろう、小切手は『現金の代わりになるもの』だと」
老練工房「だけどよぉ、工房長。うちの工房じゃあ、小切手を現金に換えることは滅多にないんじゃねえか?」
工房長「受け取った小切手は現金にせず、そのまま当座預金に預けることが多いですね」
黒エルフ「その場合は『当座預金』の勘定科目を使うわ」
工房長「どうですか、小切手について少しは分かりましたか?」
老練工房「いやあ、姉ちゃんたちと喋ると勉強になるや」
女騎士「任せてほしいのだ!」
黒エルフ「この程度、基本中のキホンよ」
衛兵「……失礼する!」
工房長「衛兵さまが、この工房にいったい何のご用でしょう?」
衛兵「ここに港町銀行代理人が来ていると聞いている!」
女騎士「代理人は私たちだが……」
衛兵「王国府より伝言だ! 国王さまは、お前たちの謁見に応じてくださる!」
黒エルフ「謁見? そんなの頼んでないわ」
衛兵「知らん!」
黒エルフ「知らん……って、あんたねえ──」
衛兵「本日、日没の時刻に王宮に参じよ! 伝言は以上だ! では、失礼する!」
ザッ ザッ ザッ……
女騎士「どうやら嘆願書だけでは、購入金額の変更には応じてもらえないようだな」
黒エルフ「無茶な金額を吹っ掛けておいて、今度は直接挨拶に来いですって? 何それ、感じ悪ぅ! だいいち、カネを借りるのは王さまでしょ? 挨拶に来て頭を下げるべきは王さまのほうじゃない!」
工房長「そんな無茶な……」
黒エルフ「きっとヘドロヒキガエルみたいにケチで意地汚いやつなんだわ、王さまって」
女騎士「王さまは12歳のはずだが」
黒エルフ「なら、オタマジャクシね!」
老練工房「ははは、オタマジャクシか! そいつは可愛いや!」
黒エルフ「可愛くなんかないわよ。ぬるぬるで超気持ち悪いんだから」
女騎士「……」じぃっ
黒エルフ「な、何よ。あたしの台詞に文句でもあるわけ?」
女騎士「……いや、謁見するなら、その格好ではマズいと思って」
工房長「いま着ているのは、港町の平民の作業着ですよね」
老練工房「王さまの前に出るなら、もう少しきちんとした身なりのほうがいいな」
黒エルフ「……正装の着替えなんて持ってないわよ」
女騎士「そうか! ならば私に任せてくれ!」
黒エルフ「?」
女騎士「さっそく買い物に出かけるぞ!」