家庭でも「エリート」だった夫—無自覚なモラハラ
柴田さんは、職場では合理的な判断力を持ち、部下に的確な指示を出す有能な官僚でした。しかし、その姿勢は家庭でも変わらず、妻に対しても「正論」を押しつけることが多かったといいます。
「それ、効率悪いんじゃない?」
「俺の言う通りにすれば、もっと楽になるのに」
「なんでこんな簡単なことができないの?」
本人は悪気なく発した言葉だったかもしれません。しかし、長年こうした言葉を受け続けた真由美さんにとって、それは「夫からのダメ出し」としか感じられなくなっていました。また、仕事が忙しかった柴田さんは、家事や育児にはほとんど関与してきませんでした。「俺が稼いでいるのだから、家のことは妻がやるのが当然」と思っていたわけではないものの、結果的にそうなっていたのです。
そのようななか、夫が早期退職。しかもそれは相談なしに、哲也さんの独断で決めたことでした。「これからは夫婦でゆっくり過ごせる」と考えていた哲也さん。しかし、真由美さんにとっては、それはむしろ負担の増加を意味しました。
長年外で働いていた夫が家にいる時間が長くなれば、食事の準備や家事の負担が増えることになります。それだけでなく、家庭内での「指示」や「口出し」が増えたことが、さらにストレスを与えました。
「何もしないわけではないけれど、自分のやり方を押し付けてくる」
真由美さんにとっては「自分のやり方を否定される苦痛」でしかありませんでした。そしてある日、真由美さんは「もう、限界」とだけ告げて、家を出ました。
熟年離婚は近年増加傾向にあります。特に、夫の退職後に離婚を決断するケースが少なくありません。夫側からすると「突然の離婚宣告」と感じられることが多いですが、実際には長年積み重なった不満の結果であることがほとんどです。
株式会社Clamppyが熟年離婚を経験した男女に対して行った調査によると、離婚後「孤独を感じる」と回答した女性はわずか5%でした。この結果は、多くの人が抱く「離婚後の寂しさ」というイメージとは大きく異なるものです。さらに約6割の女性が「解放感を感じた」と回答しました。そして「後悔はない」と答えた人は9割近くに達し、離婚後の生活に満足している女性が多いことが伺えます。
この背景として、経済的・精神的な自立を確立している女性が増えたこと、また、SNSなどを通じてコミュニティを形成しやすくなったことなどが考えられます。熟年離婚は、必ずしもネガティブなものではなく、新たなスタートを切るチャンスと捉える女性が増えているのかもしれません。
熟年離婚を機に前向きに生きる(元)妻たち。一方、離婚後の夫は「孤独」と「収入減」のダブルパンチに見舞われます。55歳を過ぎての再就職は簡単ではなく、年金支給開始までの生活費をどう確保するかが課題になります。現実として、経済的に困窮。「何かの間違いでは?」と現実を受け入れられない(元)夫も少なくないのです。
[参考資料]