60歳定年というケースが多いなか、定年後も働くかどうか、個々が判断しなければなりません。ひとつの判断基準が「定年後にお金の不安がないかどうか」。何があろうと「心配なし!」といえるのであれば、定年を機に仕事を辞めるという決断ができるでしょう。ただ人生はそう簡単ではないようです。
無謀でした…〈月収60万円〉〈退職金2,400万円予定〉の59歳サラリーマン、〈3,000万円〉を貯めて60歳定年退職を目論むも「やっぱり働かせてください」のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

予期せぬ親の介護問題…定年後のライフプランが総崩れ

しかし、青木さん夫婦の人生設計は、予期せぬ出来事によって大きく狂うことになります。それは義父の介護問題。80歳になる義父が転倒・骨折により、要介護3認定。介護が必要になりました。

 

【介護が必要となった主な原因…上位3位】

■要介護3

1位「認知症」…25.3%、2位「脳血管疾患」19.6%、3位「骨折・転倒」12.8%

■要介護4

1位「脳血管疾患」…28.0%、2位「骨折・転倒」18.7%、3位「認知症」14.4%

■要介護5

1位「脳血管疾患」…26.3%、2位「認知症」23.1%、3位「骨折・転倒」11.3%

出所:厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』

 

介護施設への入居を検討したものの、義父は「絶対、施設なんかに入らない」と激しく抵抗。仕方なく、子どもたちのなかで一番近くに住んでいた紀子さんが面倒をみることになりました。しかし献身的に親の介護に尽くしたものの仕事との両立は困難を極め、最終的に介護離職を余儀なくされたのです。

 

介護離職は年間10万人前後で推移。肉体的・精神的負担の大きさは相当なものであり、介護と仕事との両立がどれほど難しいかは、想像にたやすいでしょう。

 

徹さんの定年後の生活は、妻・紀子さんが同じように60歳定年まで働くことを前提としたもの。綿密に立てていた定年後のライフプランは、根底から覆されることになったのです。定年で仕事を辞めたら、年金を受け取り始めるまで無収入。親の介護問題に直面して初めて、お金の不安を感じるようにもなりました。今のところ紀子さんが主に介護にあたるだけで金銭的な負担はありません。しかし今後、経済的な負担も強いられる可能性はゼロではないでしょう。

 

色々と考えていくと、定年を機に仕事を辞める選択はあまりにもリスクが大きいと感じるようになりました。結局「定年で仕事は辞めるなんて無謀でした。やっぱり働かせてください」という決断に至った徹さん。定年後は趣味三昧という生活は、幻に終わりました。

 

苦渋の決断だったものの、人生には想定外の出来事が起こりうることを改めて知ったという徹さん。義父の介護問題が定年前に勃発したのは不幸中の幸いでした。「何が起きても大丈夫、と思えるまでは仕事を続けるつもりです」といいます。

 

定年前後、親の介護以外にも突発的な支出を伴う出来事はいろいろ。それに耐えうることができるかどうかが、定年で仕事を辞める際の判断ポイントになるでしょう。

 

【老後考えておきたい突発的な支出】

●医療費・介護費

病気やケガによる入院費、手術費、介護費用などは高額になる場合があります。公的医療保険や介護保険でカバーできない費用も考慮する必要あり。

目安金額:数百万円~数千万円

●住宅の修繕費

長年住んでいる住宅は、老朽化に伴い修繕が必要になる場合があります。屋根や外壁の修繕、水回りのリフォームなど、まとまった費用がかかることも。

目安金額:数百万円~

●家族の援助

子どもや孫の結婚、住宅購入、教育など、家族への経済的な援助が必要になる場合があります。

目安金額:数十万円~数百万円

 

[参考資料]

厚生労働省『令和6年 高年齢者雇用状況等報告』

厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』