
60歳を前にあの世行きだと思っていたが…人は簡単には死なない
――60歳で死ぬと思っていました
斉藤進さん(仮名・77歳)は、若い頃から「国なんか信用できるか」と、年金保険料を納めてきませんでした。
――昔は、25年払わないと年金がもらえなかったんです。「そんな話があるか」「国なんて信用ならねえ」と思って、払わなかったんです
その後、年金支給の最低ラインは10年に短縮されました。それでも斉藤さんは、「9年11ヵ月だと年金がゼロになるなんて、バカげている」と、国の制度への不信感を拭えませんでした。その不信感は根深く、幼少期の複雑な家庭環境で「国は何もしてくれなかった」という経験が、強い拒否感につながっているということです。
これまで日当制の仕事を転々としてきましたが、現在は交通誘導員として週3~4日勤務しています。夜間帯が多く、時給は1,450円です。月収は約18万円、手取りで約15万円になります。厳しい夏の暑さや冬の寒さは体にこたえますが、「月15万円もあれば十分」と考えていました。
しかし、75歳を超え、後期高齢者となった今、斉藤さんは誤算を感じています。
――いつの間にか70代も後半になっていました。まさか、こんなに長く生きるとは……私が子どもの頃は平均寿命は60代だったんですよ。今までいい加減に生きてきたから60歳前には命は尽きる、だから「年金なんて意味ない」と思っていたんです。それなのに、人は簡単には死なないものなんですね
2023年の日本の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.14歳です。1950年には男性が59.57歳、女性が62.97歳でしたが、1986年には男女ともに75歳を超え、現在は男女ともに80歳を超えています。
また、平均余命を見ると、60歳男性で23.68年、65歳で19.52年、70歳で15.65年、75歳で12.13年、80歳で8.98年です。実際にその年齢になってみると、平均寿命よりも長く生きられるのが実情です。