いずれ、多くの人が直面する「親の介護」。その負担は大きくプロに任せる人も珍しくありません。しかし他人は「人に頼ればいい」と簡単にいいますが、そう簡単ではないのが介護問題の難しいところです。
父さん、もう無理だ。〈月収48万円・55歳〉ひとり息子、同居する〈年金月14万円・88歳〉の寝たきりの父と「完全決別」を決めた切実事情 (※写真はイメージです/PIXTA)

経済的にも重くのしかかる介護負担。離職して楽になろうと思ったが

介護による、肉体的、精神的負担に加えて、経済的負担ものしかかり、「もう仕事を辞めたい、楽になりたい……」と口にするようになった浩之さん。定年まで5年早いけれど、今仕事を辞めても1,700万円ほどの退職金がもらえそうです。

 

――これだけあれば、何とかなる

 

そう考えた浩之さん。しかし周りが全力で止めます。厚生労働省『令和4年就業構造基本調査』によると、介護離職者は全国で10.6万人。男女別にみていくと、女性約8.0万人に対して、男子2.6万人と、圧倒的に女性のほうが介護負担が重いことが多いと考えられますが、介護負担で仕事を辞める男性も珍しくはありません。

 

しかし「介護離職はやめろ」と、基本推奨されません。主な理由は大きく2つ。まず「経済的困窮のリスク」。収入の減少に加え、介護離職後に再就職しようとしても、年齢やキャリアブランクなどが障壁となり、以前と同じような条件で働くことが難しい場合が多いという事情も。介護が終わった際には自身は老後となるも、そのための準備は不十分で非常に不安定なものになってしまうのです。

 

そして社会的孤立。介護は精神的にも肉体的にも大きな負担であることは浩之さんの状況をみても明らか。さらに仕事を辞めると、社会とのつながりが希薄になり、孤立感を感じやすくなります。

 

仕事を辞めればその分、介護負担は軽くなりますが、しかし、同時に自身の老後破綻を招くものである……周囲が介護離職を止めるはずです。

 

八方塞がりとなった浩之さん。父の願いを叶えるか、それとも家族の将来を守るか……深く悩み苦しみました。そして苦渋の決断を下し、勝利さんを月年金14万円以内で入居できる施設に預けることを決めました。

 

【年金14万円で入居可能な老人ホーム】

■特別養護老人ホーム(特養)

公的な介護保険施設であり、比較的費用が抑えられます。ただし要介護3以上の方が入居対象のため、介護度の高さによっては利用できません。また人気が高く、入居待ちになる可能性も。

■ケアハウス

軽費老人ホームとも呼ばれ、比較的低額で入居可。自立~軽度の介護が必要な方まで入居できます。

所得制限があります。

■介護老人保健施設(老健)

在宅復帰を目的とした施設で、リハビリテーションなどが受けられます。入居期間に制限も

 

比較的近くにある特養への入居がスムーズに決まりましたが、入居当日、もう自宅に戻れないことを察したのでしょうか、勝利さんは「いやだ、いやだ」と訴えました。その声が耳から離れず、しばらくは後悔の念で一層落ち込んだという浩之さん。しかし介護負担から解放され、格段と体調がよくなったといいます。

 

浩之さんの決断は、決して簡単なものではありませんでした。しかし父への愛情と、家族を守る責任感の間で、最善の道を選んだんだ……浩之さんは自身にそう言い聞かせているといいます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』

総務省『令和4年就業構造基本調査』