
「家に帰りたい」といって亡くなった母親。父親には同じような目に合わせたくない
森浩之さん(仮名・55歳)。父・勝利さん(仮名・88歳)が体調を崩したのをきっかけに同居をすることになりました。比較的近くに住んでいたため、「同居といってもそんな大げさなものではなかった。体調がよくなったら自宅に戻ろうと思っていた」といいます。しかし、目論見は外れ、徐々にひとりで歩くのは困難になり、2年ほど前からはほぼ寝たきりに。さらに最近は、認知症の傾向もみられるようになりました。
介護は想像以上に厳しいもの。介護は24時間体制で、朝、ホームヘルパーが自宅に来るのと同時に出社し、夕方、日が暮れたあたりにバトンタッチ。その後は父が寝るまでつきっきりで、寝たあとも数時間ごとに寝返り介助を行います。そのため浩之さんは心身ともに疲弊。何とか仕事を続けながら介護をしていましたが次第に両立は難しく感じはじめ、睡眠不足やストレスから体調を崩し、仕事でのミスも増えました。
【要介護度別・介護者の介護時間の「ほぼ終日」と「半日程度」の割合】
■要介護3
ほぼ終日…31.9%、半日程度…21.9%
■要介護4
ほぼ終日…41.2%、半日程度…20.0%
■要介護5
ほぼ終日…63.1%、半日程度…17.2%
出所:厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』
――もう限界かもしれない
そう思いながらも介護と仕事を両立してきたのにはわけがあります。それは今から10年ほど前に、5年の闘病生活の末、一度も自宅に戻ることなく亡くなった母親への後悔。亡くなる前、「家に帰りたかった」とポツリいったことを鮮明に覚えているという浩之さん。そして以前、勝利さんも「最期は自宅がいい」といっていたことを覚えていたのです。「父親に母親と同じような思いをしてほしくない」、ただその一心で介護を続けていたのです。
しかし勝利さんの介護費用はかさみ、年金月14万円に加えて預貯金を取り崩して対応。しかし長い介護生活のなかで預貯金は底をつき、最近は浩之さんが不足分をまかなうようになっていました。浩之さん、これからは夫婦二人の老後に向けて資産形成を本格化させなければいけないタイミング。そこに立ちはだかるのが、住宅ローンに、子どもの教育費。あと5年はこれらの負担から逃れられそうもありません。そこに父親の介護負担が重くのしかかります。