介護はひとごとではありません。いつどのタイミングで介護する立場になるか、される立場になるかは誰にもわからないことでしょう。働き盛りの世代で配偶者や家族の介護を担う「若若介護」。それは、長期にわたる経済的負担、仕事との両立の難しさ、そして自身の老後設計の崩壊など、深刻な問題を引き起こします。本記事では、Aさん家族の事例とともに介護がもたらす経済的・精神的影響について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
年収1,200万円の大企業営業部長、50歳で「そろそろ老後準備を」と計画的人生だったが…3年後、年収200万円に。現在は息子の仕送りに頼る日々。理由は「変わり果てた妻」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

老後計画はメチャクチャに

Aさんが50代に入ったころ、妻とは「子どもたちも2人とも大学生になったし、そろそろ老後資金作りも考えていこうね」と話し合っていました。「妻が寝たきりになってしまったことで老後計画はメチャクチャになってしまった」とAさんはいいます。特に、仕事を辞めて収入が大きくダウンしたことや、20年以上も残っていた住宅ローンは非常に大きな負担になったそうです。

 

その後、貯蓄を取り崩し、なんとか息子たちに大学を卒業させることはできましたが、就職後も2人とも自宅には戻ってこなかったため、夫婦2人きりで住むには広すぎる住まいを手放し、中古の小さな一戸建てを購入して現在もAさんの介護は続いています。

 

「妻の変わり果てた姿には胸が痛みます。最近は、妻に認知症の症状も出てきてしまい大変ですが、ときどき笑顔で昔の話をするときは、私も気持ちが穏やかになります」とAさんは話します。

「若若介護」の悲惨さ

一般的に介護というと、80代~90代の親を60代~70代の子どもが面倒をみる、というイメージがありますが、60代以下の家族をその配偶者や若い家族が面倒をみるケースも少なくありません。このように60代以下の家族を20代~50代以下の世代が介護することを「若若介護」というようです。

 

介護を受ける世代が50代や60代となると、平均寿命を考えても非常に長期間の介護となることが考えられます。先の見えないトンネルに入ったような不安を受ける介護者も少なくないようです。

 

介護施設も公的施設であれば民間施設に比べて金額も割安になるでしょうが、どうしても高齢者が優先になり入居は難しくなります。万が一、民間施設に入居できたとしても介護期間がどれだけ長期になるかわかりませんので、経済的に考えてもAさんのように自宅介護となるケースが多くなりがちです。働き盛りの人が介護をしないといけなくなると、どうしても仕事に影響が出てきます。

 

筆者も介護の経験がありますが、施設に入居できたとしても具合が悪くなると救急車で病院に搬送され、その都度仕事先から呼び戻されることが何度もありました。正社員の人だと有給休暇を使う日が増えたり、早退や遅刻が増えたりすると、理解のある会社であっても居づらくなって辞めてしまう人が多いものです。

 

退職後は派遣やパートでの勤務になったことで、収入が激減したというケースはもちろん、当然老齢年金の支給額にも影響が出てきます。Aさんの場合も65歳になったときの公的年金(厚生年金+基礎年金)額は月13万円弱(予想)となってしまい、子どもの教育費や生活費のために、加入していた自身の個人年金もすでに解約してしまっていました。介護が終わったとしても、Aさんの老後の生活は余裕のあるものではありません。

 

「息子たちは仕送りしてくれますが、これからは結婚して子どもも生まれたりしてお金もかかるでしょう。できるだけ健康で長く働いて、息子たちの負担にならないように、と思っています」
 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表