将来性を売りにしているスタートアップ企業。入社したときよりも数倍に企業が成長する可能性を持ち合わせていますが、ここ最近、求職者からは厳しい評価をされるようになってきたといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、採用市場におけるスタートアップ企業と求職者それぞれの変化について解説します。
求職者から「夢はもういいのでキャッシュをください」の声…将来性を売りにするスタートアップ企業が採用合戦で惨敗するようになった理由【人材のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

スタートアップ企業と求職者の溝は大きくなりつつある

スタートアップ界隈の企業側では、人事担当や経営幹部と求職者の溝が2024年後半を境に大きくなりはじめていて、特に企業側がついていけない様子になっています。つまり、彼らには求職者の動向がわからないのです。どちらが正解で、どちらが間違っているということではないのですが、企業側からすると出せる精いっぱいを提示しています。

 

企業側はゆくゆく成長して多くのリターンを得られるなら、頑張る価値があるだろうと考えます。一方で、求職者側が企業のデータを見ると、スタートアップは総じて利益が出せなくなってきています。だから、投機的な判断はできない、いまの自分の評価に対して適切に支払ってくれる会社でなければ飛び込むのは危険だと考えています。

 

ここに両者のギャップがあるわけです。この場合、企業側が歩み寄ってこのギャップを埋める努力をしないと、人材獲得は非常に難しくなります。

 

さらに、スタートアップ企業側の採用を難しくしている背景として、コンサルティングファームの台頭があります。各種のコンサルティングファームは伝統的なグローバルなファーム、新興の独立系のファームを含めてかなりの好待遇で採用市場に殴り込みをかけており、スタートアップ行きを渋る、でも伝統的な大企業へのカムバックにも難色を示す、そういう若手優秀層の受け皿になってきています。

 

コンサルティングファームへの転職は2~3年の緊急避難的なものかもしれません。しかし、破格の報酬もあり、結局は消去法でそこを選ぶ人が増えているのです。優秀な人ほどそうする傾向にあります。その結果、スタートアップが採用合戦に惜敗する件数がかなり増えてきています。

 

2025年もコンサルティングファームの活況が続くかどうかわかりませんが、求職者がクールで現実的な視点を持ちはじめているなかで、「夢」で釣り上げることのトレンドはもう過ぎ去りつつあります。スタートアップ企業が採用市場でのアジャストを求められることは、間違いないのではないでしょうか。

 

 

福留 拓人

東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長