将来性を売りにしているスタートアップ企業。入社したときよりも数倍に企業が成長する可能性を持ち合わせていますが、ここ最近、求職者からは厳しい評価をされるようになってきたといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、採用市場におけるスタートアップ企業と求職者それぞれの変化について解説します。
求職者から「夢はもういいのでキャッシュをください」の声…将来性を売りにするスタートアップ企業が採用合戦で惨敗するようになった理由【人材のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

スタートアップ企業の採用市場では大きな変化が

2024年の転職市場をエージェントの立場から振り返ると、多種多彩な変化が見えました。そのなかで、今回はスタートアップ界隈の著しい変化について触れてみます。

 

岸田政権の時代に、政府は「日本のスタートアップを育てる」「スタートアップを盛り上げていかなければならない」などと声高に叫び、関連省庁が音頭を取り、いろいろな政策が打ち出されました。その結果、新しいスタートアップ案件も次々に増え、創業者の方々もチャレンジし、市場も活況を呈していたように見えました。

 

特に長期間続いた「異次元の金融緩和」と呼ばれる政策は投資家筋でのカネ余りを生み出し、そこでだぶついたマネーはスタートアップ界隈の資金調達にも追い風となりました。

 

「〇〇のスタートアップが〇〇億円の資金調達に成功した」というような記事を、みなさまも新聞や雑誌でお見かけになったことがあるかと思います。ですが、2024年の後半になると、その手の記事をすっかり見かけなくなったと感じていらっしゃる方も多いでしょう。

 

こうしたスタートアップの変化に伴い、2024年後半からスタートアップ界隈のベンチャー企業の採用現場でも大きな変化が出てきました。前置きが長くなりましたが、「求職者がスタートアップの企業に対し、極めて厳しく辛辣な評価を行うようになってきた」というのが本題です。

 

もともとスタートアップ(ベンチャー企業)は創業から間もない時期に、限られた経営資源でチャレンジしている企業といえます。もちろんIPOのハードルが以前より下がってきたこともあり、新興市場に上場する直前または直後の企業もスタートアップのなかに含まれます。

 

求職者に対していろいろな処遇を施したい気持ちは山々あるのですが、駆け出しなのでそれはまだ難しいという発展途上にあります。だから、その代わりに「一緒に夢を見ましょう」「夢を追いかけましょう」と求職者の心に訴えることになります。これがスタートアップの特徴であり、神聖化された部分でもあり、脆弱化された部分でもあるわけです。