会社にとっては手続きが煩雑に…それでも獲得したい人材かどうかがポイントに
このところ、ハイパフォーマーの人材において年収がインフレーションしていることはこのコラムで何度かお伝えしました。例えば、想定年収が2,000万円を超えるような場合は、法人格を利用した方がはるかに可処分所得が増え、税法上のメリットが多くなります。簡単に言うと金銭面で求職者のメリットが増加するわけです。
その一方で、企業としては管理コストが増大します。人事部門のマターから経理財務部門のマターに移行するのです。そうなると窓口も変わることになりますし、法人間で契約書を交わすような形になります。もちろんサラリーマンも労働契約のようなものを交わしていますが、それについて毎年契約書を更新するようなケースは少ないと思います。
それに比べると法人間では厳格な手続きが発生します。この煩雑な手続きをしてもなお、この人にぜひ会社の戦力となって活躍してほしい、こう思わせる人材であるか否か。ここが法人格での仕事を認めてくれるかどうかの唯一の関門といっても差し支えないでしょう、煩雑な手続きを経ても獲得したい人材であるかどうか、これまでの実績と活躍がモノをいいます。
求職者が法人を設立するデメリットも
そして忘れてならないことですが、求職者にもデメリットがあります。一般的に取締役は委任契約ですが、それ以外の会社幹部は労働契約に基づいて勤務しています。つまり無期で期間の定めのない立場にあります。むやみに解雇権を濫用できない立場となって保護されています。
ところが先ほどから申し上げている法人間の契約になりますと、契約期間にもよりますが、1年単位で契約が厳しく見直されるのが一般的です。パフォーマンスがよくなかったり、思いのほか活躍できなかったりした場合は、その立場が一気に不安定になることもあります。また法人間とはいえ、競業避止や会社のガイドライン抵触、また契約する会社以外への見えない影響などにも留意しなくてはなりません。
有識者を近くに擁していたり、自分自身がその方面に明るかったりするのであれば問題ありません。税制上のメリットは非常に大きなものですから、検討してみるのもよろしいのではないでしょうか。
余談ですが、かつて高額所得ランキングや高額納税ランキングが公表されていたことがあります。そこで「超有名芸能人なのに思いのほか所得額や納税額が少ないな」と思われたことはないでしょうか。そのケースはいまご紹介した法人格で事業所得として収入を得る手法に類似したものです。
大手芸能事務所に所属はしているけれども個人事務所が認められていて、芸能事務所からのギャランティはさらに個人事務所に流れ、そこから役員報酬や給与の形で本人に払われています。そこで払われている額が所得や納税のランキングとして公表されていました。これは法人の所得ではないのでずいぶん圧縮されています。
この形を思い浮かべていただくと、いかに税制上のメリットが大きいか想像がつくと思います。この給与を事業所得で受け取る手法は、収入の多い方にいろいろなメリットがあるので検討してみてはいかがでしょうか。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長