弟は何もしてないのに…母の介護のために地元・富山に戻った〈58歳出戻り長女〉の虚無感。「長男教」だった亡き母の遺言書を思わず二度見したワケ【弁護士の助言】

弟は何もしてないのに…母の介護のために地元・富山に戻った〈58歳出戻り長女〉の虚無感。「長男教」だった亡き母の遺言書を思わず二度見したワケ【弁護士の助言】

10年間にわたって親の介護を続けてきた今日子さん。ところが、母が亡くなったあと遺産の多くが弟に譲られる内容の遺言書を見て、驚きと困惑を隠せませんでした。長年の献身的な介護が考慮されていないと感じる今日子さんが、法的にどのような対策を取れるのか、本連載では弁護士・板橋晃平氏が具体的な手順と方法をお伝えします。

弁護士からの回答

今日子さん、まず10年間にわたってお母様の介護を一身に引き受けてこられたご苦労に心から敬意を表します。そして、今回の遺言書の内容に驚かれたこと、憤りを感じていることも十分に理解できます。お母様の意思が反映された遺言書は重要ですが、法律では相続人としての権利も保護されていますので、どうかご安心ください。

 

遺言書があっても、遺産分割協議はできるのか?

遺言書がある場合、その内容とおりに相続しなければならないと思う人も多いかと思われますが、相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割をすることも可能です。本件では、今日子さんと弟さんが相続人なので、今日子さんは、遺産に対して2分の1の法定相続分が認められます。

 

仮に遺産を全て金銭に換価して分割する場合、預貯金が3,000万円、自宅とその敷地が5,000万円なので、法定相続分の2分の1にあたる4,000万円の遺産を取得することができます。

 

もっとも、今日子さんの場合には、弟さんが遺言書のとおり相続したいとおっしゃっているので、遺言書と異なる遺産分割協議をすることは困難な状態です。この場合には、遺産分割協議を求めるとともに、今日子さんのような不満を思われている方に認められている法律上の権利を行使することを検討しなければなりません。

 

今日子さんに認められている法律上の権利とは?

被相続人は遺言書で自己の財産を自由に処分することができますが、すべての財産を自由に処分することを認めてしまっては、遺族の生活保障や遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等の相続制度が機能不全に陥ってしまいます。

 

そこで、民法は、被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障するため、遺留分という制度を定めています。遺留分権者は、遺留分を侵害するものに対して、遺留分を金銭で請求することができます。民法ではこの請求できる権利を遺留分侵害額請求権と定義しています。

 

直系尊属のみが相続人である場合、遺留分を行使できる権利者に残される相続財産の価額の3分の1が遺留分となり、それ以外の場合(直系卑属のみの場合、直系卑属と配偶者の場合、直系尊属と配偶の場合)、遺留分を行使できる権利者に残される相続財産の価額の2分の1が遺留分となります。

 

遺留分権者は、遺留分を侵害するものに対して、この遺留分に対する個々の法定相続人の持分割合を乗じた金銭を請求する権利が認められています。ただし、遺留分権者が被相続人から相続した遺産は控除の対象となります。

 

今日子さんは母親の法定相続人ですので、母親の遺産の価額8,000万円の2分の1である4,000万円が遺留分となります。この価額に今日子さんの法定相続分2分の1を乗じた金額である2,000万円から遺言で相続する預貯金1,000万円を控除した1,000万円について、今日子さんは弟に対して、1,000万円を金銭で支払うように求めることができます。

 

そのため、弟さんが遺言書により、遺産の大部分を相続した場合でも、今日子さんには最低限の取り分を確保できます。

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