暗号資産相場、アメリカ大統領選挙後に再び活況を呈すが…投資としての「トークン出資」を行う際の注意点【弁護士が解説】

暗号資産相場、アメリカ大統領選挙後に再び活況を呈すが…投資としての「トークン出資」を行う際の注意点【弁護士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

2024年11月のアメリカ大統領選挙の結果等から、暗号資産相場が再び活況を呈している。ブロックチェーン技術を利用した新規トークンは世界中で大量に発行され続けており、投資の対象として「トークン」「暗号資産(仮想通貨)」等を耳にする機会も増えている。本稿では、主にビジネスの場面を念頭にトークン出資を検討する際に知っておきたい法律知識及び注目ポイントについて概説する。

「トークン」「暗号資産」等のワード、耳にする機会は増えたが…

投資の対象として「トークン」「暗号資産(仮想通貨)」等を耳にする機会も増えてきた。ビジネス系のメディアでもしばしば取り上げられているが、正しく理解している人ばかりではないだろう。

 

トークン投資は、正確にその価値や将来性を理解することが難しく、ブロックチェーンやWeb3関係の独特な用語も相まって、投資対象とするには慎重さを要する。いわゆるICOバブルの際には、詐欺的なプロジェクトも数多く横行した。トークン詐欺の場合、その被害に気づいてもブロックチェーン特有の匿名性や国際性が障害となり、法的な手段による被害回復は事実上、困難を極めることが多い。

「トークン」の法的性質

Web3の文脈で頻出する「トークン」は、それ自体マジックワードであり、その法的な性質は一義的に定まるものではない。あるトークンが日本法上、どのような規制に服するかは、当該トークンの機能や用途から定まってくるものであるが、当該トークンが日本法上、どのような法的性質を有するかを正確に理解できない状態では、トークンを用いた出資についてビジネスジャッジをするには心許ないといわざるを得ない。

 

Web3ビジネスにおけるトークンには、暗号資産(ペイメントトークン/仮想通貨)、ステーブルコイン、ユーティリティトークン、ガバナンストークン、セキュリティトークン、NFT/SBT/SFT、RWAトークンなどさまざまな名称があり、場合によっては、ある種類のトークンが上記の複数の種類のトークンの性質を有すると説明されることもある。

 

これらのトークンにつき、日本法上、どのような規制が及ぶかが法的性質の問題であるが、この点はおおよそ金融関連法規制該当性の問題と理解しておけばよい。金融関連法規とは、具体的には金融商品取引法や資金決済法であり、これらの法律の規制対象であれば、原則として当該トークンをビジネスとして(=「業として」)販売する行為は、金融商品取引業や暗号資産交換業などの業登録が必要となり、販売業者には投資家/購入者の保護のためにさまざまな行為規制が課される。

 

もちろん、トークンを購入する側の投資家が何らかの業登録等を取得する必要はないものの、出資先となるトークン発行体事業者がこれらの業登録を取得しているかどうかは、金融庁のホームページで簡単に確認することができ、金融庁の厳格な監督下にある登録事業者からのトークンの購入であれば、一定の安心感がある。

 

トークンの法的な性質を厳密に判定するのは、法律家でも容易でないケースが多いが、トークンの機能・用途につき、①収益分配機能を有するか、②決済手段・送金手段としての経済的機能を有するか、の2点が大きな判断指標となる。

 

すなわち、当該トークンを保有することで事業等の収益の配当を受けられるという収益分配機能があれば(①)、当該トークンは、金融商品取引法上の有価証券(特に電子記録移転権利、法2条3項)に該当するおそれがある。また、当該トークンが不特定者に対して代金の支払い手段として機能する場合や隔地者間の送金手段として機能する場合(②)は、資金決済法上の暗号資産(法2条14項)や前払式支払手段(法3条1項)、電子決済手段(法2条5項)等に該当するおそれがある。

 

以上の簡易判定は、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会の「NFTビジネスに関するガイドライン第3版」(https://cryptocurrency-association.org/cms2017/wp-content/uploads/2024/08/JCBA_NFTguidline_v3.pdf)が参考となる。

 

トークン出資の対象となるトークンの多くは、上記のうち「暗号資産」に該当することが多い。ブロックチェーンを用いて作成されたトークンで、不特定者に対して代価弁済のために使用でき(代価弁済機能性)、かつ、不特定者を相手に購入及び売却ができるもの(市場交換性)であれば、一部の例外を除いて概ね「暗号資産」の定義を充足する。

 

注意すべきは、上記の機能性は広く解釈されており、現実に当該トークンを用いて代金を支払うことができるECサイト等が存在しなくとも、当該トークンの「仕様」として可能であれば、充たすと判断されるおそれがある。暗号資産の典型例は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)である(資金決済法2条15項1号に定めるいわゆる「1号暗号資産」)が、これらの暗号資産と自由に交換可能なトークンもまた暗号資産(同2号に定めるいわゆる「2号暗号資産」)に該当する。

 

以下は主に「暗号資産」に該当するトークンプロジェクトへの出資を念頭に解説する。

トークンプロジェクトの資金調達方法と法規制

①トークンによる直接的な資金調達

トークン発行を伴うWeb3プロジェクトの資金調達方法として、最もストレートな手法は、海外のプロジェクトに多い「トークンへの直接投資」である。すなわち、投資家は事業体が発行するトークンを購入することで出資を行い、プロジェクトの成長によりトークン価値が上昇すれば、投資家は当該トークンを売却することでキャピタルゲインを得る。

 

海外では、SAFT(Simple Agreement for Future Token)と呼ばれる投資契約書式が活用されている。これは、投資時点では未発行のトークンを、発行後に割安で購入できる権利等に対して対価を支払う形式で出資を行うものである。

 

しかし、現状の日本の法規制において、暗号資産に該当するトークンについて、SAFTの形式で出資を募るには、トークンの発行体事業者において暗号資産交換業(資金決済法2条15項)の登録が必要であると考えられる。そのため、暗号資産交換業の取得のハードルが高い現状では、そのままSAFTを活用することは難しい。

 

したがって、現在、トークンの発行体が暗号資産交換業のライセンスを取得することなく、トークンで資金調達を行うための手段としては、IEO(Initial Exchange Offering)と呼ばれる暗号資産交換業登録を取得した交換所を介した販売が一般的である。IEOでは、暗号資産交換業者と業界団体によって、トークンの発行体事業者やトークンを用いる事業の継続可能性等が審査されることで、投資家の保護が図られている。

 

②株式/新株予約権等による資金調達

上記のIEOは、株式の新規公開(IPO)に準じた時間的及び金銭的コストを要するものであり、機動的な資金調達という面では難点がある。そのため、既存の資金調達方法である株式や新株予約権の私募が活用されるケースも多い。この場合、トークン発行体の事業者がクローズドに少数の投資家に対して、自社の株式や新株予約権を販売する際には、とくに業登録等を必要とするものではない。

 

近年、あくまで自社の株式や新株予約権等に対する出資の形式としつつ、株式等に付随するいわば「おまけ」の形で将来的なトークンの付与を約束する覚書を締結するケースもみられる。「暗号資産」に該当するトークンを業として有償販売する行為には暗号資産交換業の登録が必要なのは既述のとおりだが、当該トークンを発行して無償で配布する行為には、暗号資産交換業の登録は不要である。

 

したがって、株式等のおまけとして、対価を得ないでトークンを付与することは、直ちに暗号資産交換業の登録を要するものではないと考えられる。もっとも、主客が逆転し、実質的にトークン販売となる行為を無登録で実施することのないように十分注意を要するものである。

トークン出資の際の注目ポイント

①業規制違反に注意する

トークン投資を実施する投資家の立場では、上記で確認したトークンの法的性質や資金調達のスキームを踏まえ、発行体事業者において金融関連法規の業規制違反がないかを確認することが重要である。仮に無登録営業の発行体事業者からトークンを購入したとしても、それ自体投資家において直ちに法律違反等に該当するものではないが、資金調達におけるコンプライアンスが怪しい事業者のトークンプロジェクトに持続性や発展性が期待できるかは疑問である。

 

きちんとした発行体事業者なら、上記の「株式/新株予約権等による資金調達」で挙げた方法のように、特段の業登録等を取得せずに資金調達を行うのであれば、当該資金調達が適法であることにつき、弁護士等に相談するなどして法的な見解を整理しているはずである。

 

安易に海外におけるトークンによる資金調達スキームを直輸入し、「海外で使われているのだから、日本でも使えるはず」などといって日本法の適用を無視しているケースもあるので要注意である。

 

②ホワイトペーパーをしっかり確認する

トークンプロジェクトでは、プロジェクトの概要や将来の事業計画等を明記したホワイトペーパーが作成されるのが通例である。トークン出資の際、ホワイトペーパーでプロジェクトの持続可能性や発展可能性について精査することが必要不可欠である。

 

多くのトークンプロジェクトの失敗事例は、トークン出資による資金調達のみを行い、その先のトークンエコノミーを構成する事業やシステム開発等が頓挫するというものである。分散型のプロジェクトであれば、事業の責任主体も推進主体も曖昧になりやすい。実現性に乏しい事業計画となっていないかは十分に確認すべきである。

 

③出資先事業者をよく確認する

出資先となるトークンプロジェクトの事業者が明確であるかは、いざというときの法的な責任追及の可否に直結する問題である。Web3のプロジェクトは分散化されたプロジェクトであればあるほど、特定のだれかではない、プロジェクト自体に出資をするという形になりかねない。

 

どこのだれかわからない人に暗号資産で出資することになれば、仮に詐欺であることが発覚したとしても、ほとんど被害回復は不可能である。また、プロジェクトの中心となる事業者が海外事業者である場合は、仮に当該事業者の存在が明確で特定できても、国境をまたいだ責任追及には多額の費用と時間を要することになる。

 

したがって、出資先となる事業者が確実に存在しているか、信頼に足る事業者か、国内事業者か等は、極めて基本的なところであるが、重要である。

 

なお、海外事業者であるとしても、日本居住者向けにWeb3ビジネスを行う場合は、基本的に日本法の適用を受ける。したがって、海外事業者であることを理由に、本稿で解説した法適用を受けないと説明して無登録で出資を募るケースなどは十分に注意したい。

まとめ

トークンプロジェクトへの出資の際には、本稿を参考に、投資対象の健全性を十分に精査することをお勧めする。

 

トークンの法的性質によって適用される法規制は異なり、発行体事業者が資金調達を行う場合のルールは異なる。具体的な投資局面において、発行体事業者のコンプライアンスに不安を覚えた際には、出資前にWeb3関連の法規制にくわしい専門家への相談を検討してほしい。

 

 

弁護士法人GVA法律事務所
パートナー弁護士 熊谷 直弥

 

 

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