法人設立のベストタイミングと注意点
法人化を検討するベストタイミングは、主に「利益の増加が見込まれるとき」「信用力を高める必要があるとき」「税務面のメリットを得たいとき」など、事業の拡大期や転換期が挙げられます。法人化すると、個人事業よりも税率が低く抑えられる場合があるほか、社会保険などの福利厚生を整えやすくなるため、優秀な人材を確保するうえでも有利になります。
法人化には多くのメリットがあります。しかし、決算や税務申告などの手続きが増え、維持コストがかかることも考慮しなければなりません。社会保険の加入義務の発生なども発生します。法人化を考える際には、これらの増加コストをカバーできる収益があるか検討したうえで進めることが重要です。
〈法人化のベストタイミング5選〉
①所得:年間所得が800万円を超えたとき
②売上:年間売上が1000万円を超えたとき
③資金:株式発行による資金調達を検討しているとき
④信用:法人としか契約できない取引先と契約締結を要するときなど
⑤情熱:起業したいと思ったとき、社長になりたいと思ったとき
①所得:年間所得が800万円を超えたとき
所得とは、収入から必要経費を差し引いた額を指します。法人化の目安として年間所得が800万円といわれる理由は、800万円の所得に対して課される所得税率が23%であるためです。
個人事業主の所得税には累進課税(所得が増えるほど税率が上がる)が適用されているのに対し、法人税は一定で、資本金1億円以下の法人なら税率は一律15%です。このため、年間所得が700万円を超えたら法人化を検討し、800万円前後で法人化するのがよいといわれています。
②売上:年間売上が1000万円を超えたとき
年間売上が1000万円を超えると消費税の納税義務が生じるため、これも法人化をする1つの目安になります。
個人事業主の場合、2期前または1期前の特定期間(例: 1月1日から6月30日)の売上が1000万円を超えた場合、翌年に課税事業者となります。このタイミングで法人化すると、法人の2年間の消費税免除が適用され、消費税の納税を一時的に免除できます。法人化後は別の事業と見なされるため、個人事業主時代の消費税免除を引き継がず、法人設立後は最大2年間の免税が可能です(※例外あり)。
※例外:人材派遣業や不動産貸付業など特定業種は、事業内容が消費税の適用免除の対象外となる場合があります。
また、設立直後に大規模な資本が追加された場合、課税事業者の対象となるケースがあります(資本金が1000万円を超えない範囲でも特例措置が適用されることがあります)。そのほか、関連会社やグループ法人がある場合は消費税免除が適用されないケースもありますので、具体的ことは税理士などの専門家に確認しましょう。
③資金:株式発行による資金調達を検討しているとき
資金調達のために株式の発行を検討している場合、法人化し、株式会社を設立する必要があります。株式を発行して投資家から資金を集めることが認められているのは、株式会社だけだからです。
株式発行により資金を調達できれば、銀行からの借り入れだけに頼らず、事業拡大や新しいプロジェクトへの投資資金を確保できるため、成長性を高める大きな手段になります。外部からの資金調達を視野に入れるなら、法人化して株式会社を設立することが第一歩です。
④信頼:法人としか契約できない取引先と契約締結を要するときなど
ビジネスの場面では、取引先の方針や契約規約により、法人でなければ契約できない場合があります。特に大手企業や業界によっては、信頼性や取引の安定性を確保するために、契約相手が法人であることを求めることが多いです。そのため、こうした会社との取引機会を得てビジネスチャンスを広げたい場合には、法人化が必要になります。
⑤情熱:起業したいと思ったとき、社長になりたいと思ったとき
起業をしたい、あるいは「自分が社長になりたい」と強く思ったときは、法人化をする絶好のタイミングです。登記することにより会社は法人格を手に入れます。株式会社の登記簿には「代表取締役」と記載されて公示されます。
代表取締役として責任を持ちながら経営を進めることで、事業に対する意識はさらに高まるでしょう。会社にすることで信用力が増し、資金調達や取引の幅が広がるなど、ビジネスの基盤がより強固になります。
法人化のタイミングや基準はいろいろと語ることができますが、それよりもやはり、やりたい!と思ったときこそがベストタイミングなのだと思います。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士