(※写真はイメージです/PIXTA)

M&Aを検討している売り手オーナー経営者のなかには、M&Aで事業承継を実現してすぐに引退したいケースもあれば、自社を成長させるパートナーとしての買い手を求めているケースもあるでしょう。売り手が“より有利な環境”でM&Aを進めるための知識として、今回は「ファイナンシャル・アドバイザー(FA)の事業売却アプローチ」を紹介します。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が解説します。

FAの役目は「M&Aでオーナー経営者の想いを実現すること」

FAは、顧客の利益を守り、追求する役割を担うサービスです。売り手オーナーが顧客である場合、買い手探索から契約交渉まで、売り手にとっての最善を追求していきます。

 

したがって出発点は買いニーズではなく、オーナー経営者の想いです。あくまでM&Aはそのオーナーの想いを実現するためのツールであり、「どのようにM&Aを活用すればオーナー経営者の想いを実現できるか」を考えるのがFAの役目なのです。

 

M&Aで事業承継を実現してすぐに引退したいというオーナー経営者もいれば、まだまだ会社を成長させていきたいが自社単独では難しさを感じており、パートナーとなる買い手を求めているというケースもあるなど、オーナー経営者の想いはさまざまです。このようなオーナー経営者の想いをM&Aで実現していくためには、「想いを実現してくれる買い手の条件」を事前に整理しておくことが欠かせません。

FAのほうが「売り手に有利な条件」を追求しやすい理由

FAはこうしたアプローチで買い手候補先をリストアップしていくため、一般的に、業界・競合分析に基づいて潜在的に親和性の高い事業を営む買い手候補企業を提案することが得意です。他方で、多くのFA業者はM&A仲介サービスと比較して買いニーズの収集力で劣る傾向にあります。その背景にあるのは、FAが買い手から手数料を徴収するビジネスモデルでない点です。

 

例えば10億円以上の取引金額の案件においては、そもそも買収可能な買い手は限られているため、FAのアプローチで買い手探索をするのが有効でしょう。他方、2~3億円あるいはそれ以下の取引規模の案件においては、買い手候補の数もはるかに増加し、かつ、その多くを構成するオーナー会社についてはどこが手を挙げるかわからない側面もありますから、実際の買いニーズにマッチングしていくアプローチが有効かもしれません。

 

なお、FAは買い手から手数料を受領することはありませんから、M&A仲介サービスのように「その買い手が手数料を払ってくれるかどうか」を気にすることなく、「売り手の想いを実現できる買い手かどうか」によって買い手を選別することができます。M&A仲介サービスのように買い手に十分な投資案件機会を提供することを意識する必要もなく、同時並行で複数の買い手に打診することも可能です。

 

これまでも本連載で強調してきたように、売り手オーナーが事業売却で魅力的な条件を勝ち取るために一番重要なのは、買い手の間の競争環境です。そして、健全な買い手の間の競争環境を醸成し、売り手が最善の条件を買い手から勝ち取れるよう売却プロセスを進めていくことが売り手FAの役割です。実際には、顧客ニーズに応じてオークション形式を採用するケースもあれば、限られた候補企業に絞って打診していくこともあります。

FAを選定するときのポイント

買い手の間の競争環境を確保するため、FAは独自のルートでの買い手探索に加えて、他のM&A業者や金融機関など、それ以外のルートでの買い手探索を行うことでより広く買い手を探索することがあります。最近では、買い手への片手支援で案件に関与するM&A仲介会社も増えてきていますので、こうしたアプローチを行う環境が十分に整っています。

 

ただ、他のM&A業者や金融機関のルートで提案された買い手と進める場合には、買い手側にも手数料が発生してしまう(その分買い手の投資予算が圧迫され、売り手が受け取る対価にも影響する)デメリットがあります。

 

とはいえ、売り手がそのデメリット以上のメリットが取れる(より良い条件の提案が得られる)場合に限ってそうした買い手との交渉を進めることは可能ですから、売り手にとっては、FAのこうした他業者とも連携するアプローチにより広く買い手を探索するメリットは大きいといえます。

 

売り手オーナーがFAを選定する場合には、自社独自の買い手ネットワークはもちろん、他業者との連携により、売り手にメリットのある探索を支援してもらえるかを評価するべきでしょう。

 

 

作田 隆吉

オーナーズ株式会社 代表取締役社長

 

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