憧れ?嫉妬?それともモヤモヤ?なぜ私たちは「東大」に反応してしまうのか【『反・東大』著者に聞く】

憧れ?嫉妬?それともモヤモヤ?なぜ私たちは「東大」に反応してしまうのか【『反・東大』著者に聞く】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「今年の東大合格者数」「東大出身タレント」「東大生の母親に聞いた頭のいい子の育て方」「東大出身YouTuber」……テレビや雑誌、ネットニュース、SNSを開けば「東大」を冠した見出しやキャッチコピーが目に飛び込んでくるのは日常の光景。私たちはなぜ、「東大」という言葉に(憧れにしろ嫉妬にしろ)反応し、何か一言申さずにはいられないのか……。「私たちは東大を内面化している」と話す『「反・東大」の思想史』(新潮選書)の著者で甲南大学法学部教授の尾原宏之さんにお話を伺いました。

「自分は東大を出ていないから」”不公平”を正当化している?

――2021年の流行語大賞にノミネートされた「親ガチャ」という言葉もそうですが、格差を固定化するような言葉が頻繁に登場するようになった気がします。

 

尾原:「東大礼賛」の空気は、格差の正当化につながる側面もあります。「東大や京大、あるいは旧帝大を出ているからいい思いをするのが当たり前である」という思い込みは、「それ以外の人々は努力しなかったのだから冷遇されるのは当たり前である」という考えにつながります。

 

教育社会学の研究を見てもわかる通り、子供の学歴は親の収入や文化資本とも密接に関わってくるのですが、それを不公平と捉えさせない装置として、学歴が機能しちゃっている。子供のころからガンガン中学受験塾に通わせて投資した結果も大きいのに、不公平さを感じさせないようにしているというか「しょうがないじゃん、だって東大出てるんだもん」という流れになっている。

 

逆に東大に推薦入試で入ろうもんなら「ペーパーテストで公正に行われるべき」と非難が殺到する。多くの人たちが東大を内面化しているからあんなに怒るわけですよね。東大にものすごく比重がかかっている、もっと言えば東大入試に比重がかかっているわけです。東大入試を頂点とする大学入試こそが能力を判断する最もフェアな方法だという考え方が、現在の社会秩序を支えているといえます。

「外資系コンサル」「タワマン」…時代によって変わる価値と揺るがない「東大」

――「東大に対する挑戦者の戦いは倒幕運動のようなものであった」と綴られていますが、「倒幕」はこの先あり得るのでしょうか?

 

尾原:東大の時代は当面続いていくんじゃないですか。ただ、ずっとこのまま強化されていくというよりも、必ず問題や歪(ひず)みが発見され、それを克服するための揺り戻しが起こる、というプロセスが繰り返されると思います。

 

たとえば、東大の5教科7科目の入試から最も遠い世界が、面接や推薦です。戦後、医学部などのように面接を導入したり、高校の成績を重視したり、推薦枠を設けたりというのは、受験勉強や受験教育がこどもに負荷をかけ過ぎている、ペーパーテストでは測れない部分が多いという反省からでした。しかし、2018年に発覚した東京医科大学の入試における男女差別事件が象徴的なのですが、差別の手段に使われてしまいました。

 

尾原:また、一つの流れとして推薦入試に対する偏見というのもあリます。特に私立大学で、推薦で入学した学生は筆記試験で入った学生より学力が低いとされて推薦入学者をバカにするような傾向も最近目立っています。

 

階級文化ではないですが、貧富の差や格差が強まっていけばいくほど、「ペーパーテストは本当に平等なのか? つまり、東大に入るための学力というのは生まれつきとか本人の努力によって得られたものなのか?」というような問い直しはされると思うし、すでにそれは言われていることです。

 

 
 

そういう意味でも、マイケル・サンデルが『実力も運のうち 能力主義は正義か?』のなかで語った「人種差別や性差別が嫌われている(廃絶されないまでも不信を抱かれている)時代にあって、学歴偏重主義は容認されている最後の偏見なのだ」というのは日本にも当てはまります。それに対してどんな批判が出てどんな形になっていくのか……。「学力とは何か?」という問い直しは遠からぬ将来に来るような気がします。

 

ただ、「外資系コンサル」でも「タワマン」でもステータスになるものって時代によって揺れ動くけど、東大だけは揺らいでいない。設立以来、人間の格付けの基準として東大合格、東大卒という肩書が機能するのは当分変わらないんだろうなと思います。

 

 

尾原 宏之

甲南大学法学部

教授

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

「反・東大」の思想史

「反・東大」の思想史

尾原 宏之

新潮社

「東大こそは諸悪の根源!」――批判者たちの大義名分とは? 国家のエリート養成機関として設立された「東大」。最高学府の一極集中に対し、昂然と反旗を翻した教育者・思想家がいた。慶應義塾、早稲田、京大、一橋、同志社、…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧