令和3(2021)年の厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」によると、全国のひとり親世帯は母子世帯が119.5万世帯、父子世帯が14.9万世帯となっています。こうしたなか、昨今取りざたされる「ひとり親世帯の貧困問題」について、実はシングルファザーの“隠れ貧困”が増えているのです。FP Office株式会社の石井悠己也FPが、具体的な事例をもとに解説します。
息子の笑顔がツラいです…年収500万円も貯金は“ほぼゼロ”の現実。44歳シングルファザーがこぼしたSOS【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

もう、限界です…Aさんを取り巻くシビアな現実

Aさんの現状はかなり深刻だった。まず、配送に使う車両はリース。初期費用はかからなかったものの、毎月5万円のリース代が固定でかかる。さらに、ガソリン代は毎月3万円ほど。長距離の配達が重なると、ガソリン代はさらに跳ね上がる。

 

また、誤配送や荷物の破損など配送中になんらかのミスやトラブルが起きた場合、1件につき数万円の高額な罰金が科せられるという。複数回ミスを重ねると罰金は5万円、10万円と一気に跳ね上がり、その月の収入がほぼ吹き飛んでしまうことになる。

 

ある日、Aさんは配送中に車をガードレールにこすってしまい、修理代として10万円を請求された。

 

「また事故なんか起こしたら、もう終わりです。配送中は常に神経を張り詰めて運転しています。狭い道や交通量の多いエリアでの配達が多いので、事故やトラブルのリスクが高くて……。こすった月は正直、家賃出すだけでギリギリでしたね」

 

1日中車を運転して、重い荷物を運ぶドライバーの仕事は、身体にも負担がかかる。

 

「最近は腰や膝にも痛みが出はじめているのですが、もちろん仕事を休むわけにはいきません。毎朝体が重くて、起き上がるのもつらいです。でも、息子のためには俺が頑張らないといけないですから。なんとか体を動かしているんです」

 

ドライバーとしての日々の業務は、肉体的にも精神的にもAさんを追い詰めていた。

 

Aさんは1度、業務委託契約を見直そうと考えたこともあった。だが、正社員として働ける他の職種はほとんど見つからず、いまさら未経験の業種に飛び込む勇気もなかった。

 

「正直もう、限界です。でも、それでも仕事を続けているのは子どものためです。息子は頭がよくて、本当は塾に通わせてやりたかったんですが、それも叶わなかった。中学のとき、息子は学校の成績もよくて、塾に通えばもっと上を目指せたはずなんです。私立の進学校にも行けたかもしれない。でも私の収入じゃ、塾代どころか、日々の生活費さえやっとで……」

 

Aさんはしだいにうつむき、声は震えているように聞こえる。

 

「結局、公立高校に進学しましたが、息子は『家から近いし、通いやすいからいいよ』って笑ってくれるんです。その笑顔を見るたびに、なんともいえない気持ちになります。私がもっと稼いでいれば、息子にはもっといろんな世界を見せてやれたのに……息子の笑顔がツラいです」