人気衰えぬタワーマンション。需要が高いにもかかわらず、神戸市の中心部では、あえて新たな建設を規制する条例が可決されました。「廃棄物を作るに等しい」という神戸市長・久本喜造氏の強い言葉が話題を呼んでいます。本記事ではSさんの事例とともに、タワーマンションの未来について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
神戸市長「タワマンは将来の廃棄物」…市内JR駅前のタワマンを買う、年収920万円の40歳・気ままなおひとりさまに待ち受ける「絶望的未来」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

神戸市のタワーマンションへの強い危機感

2021年に神戸市では「タワーマンション禁止令」ともいえる条例が可決されました。これは2022年7月から、
 

・JR三ノ宮駅周辺においてマンションが建設できなくなる
・その周辺部分も、住宅部分の容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)が最大400%までに制限される(敷地面積1,000m2以上の場合)


 という厳しい内容です。つまり神戸市中央区の一部で建てることができるマンションは、10階程度の中規模のものが上限になるということです。

 

なぜ自治体がここまで強い条例に踏み切ったのでしょうか。それには、次のような都市計画上の懸念が挙げられます。

 

・人口バランスのゆがみ(郊外ニュータウンの空き家化)
・防災上の問題
・学校などインフラ整備の逼迫
・一時的な人口増に対するインフラの無駄な投資
・タワマンの廃棄物化の懸念

 

神戸市は政令指定都市であるにもかかわらず、人口は減少しています。2023年には人口150万人を切り、政令指定都市のなかでは京都市とともに人口の順位を落としています。それにもかかわらず、神戸市中央区だけはこの25年間で3割以上も増加しているのです。人口が増加している地域においては、災害時の避難所の確保が難しいこと、学校などのインフラ整備が間に合わず仮校舎を利用せざるをえないなどの問題が起き始めています。しかし、子供が増えるのも一時的であるため、いずれインフラ投資も無駄となります。

 

そして多くの人の印象に残ったのが「タワーマンションの廃棄物化」という言葉です。いますぐではないものの、人口減少に加え老朽化して管理体制が機能不全に陥れば、いずれ神戸市のど真ん中に廃棄物が誕生するというのです。

 

これに反対する人の意見は次のようなものが見られます。
 

・タワーマンションができると、人口が流入するので資産価値が上がる
・タワーマンションができると、高所得者が集まり税収が上がる 

 

短期的には間違いではありませんが、問題の本質はそこではないでしょう。神戸市としては資産価値や税収ではなく、将来に向けて街として生き残るための都市計画が本質のはずです。あえて資産価値のことを論じるとすれば、人口が減少する街においては、タワーマンションといえども資産価値は急激に下がっていくと考えるほうが自然です。タワーマンションの資産価値(=高値で売買できるほどの価値)は人口が増加していることが前提だからです。

 

そもそも、最近次々と新築されているタワーマンションは、大都市のど真ん中に通勤する人が、職場に近接した大都市に住めるという「立地」が最大の魅力です。街に人口が増え続けることで資産価値が維持されるのです。

 

では神戸市はどうかというと、大阪市という大都市の通勤圏です。職場が存在し多くの人が仕事に通い、かつ人口が増え続けている大阪市のタワーマンションの資産価値は上がり続けますが、神戸市は難しいのではないかと思います。「郊外の高級住宅地」と「タワーマンション」は、どちらも高所得者や資産家が住まうものですが、本質的にはまったく異なる成り立ちです。タワーマンションは大都市のど真ん中に存在してはじめて期待される役割を果たすのです。

 

また、神戸市の中心部に住宅(タワーマンション)が増えてしまうと、都市機能は住宅地としてのサイズに落ち着いてしまいます。そのサイズも人口減によってさらに矮小化していきます。そして街が壊れてしまうとタワーマンションの資産価値も下がっていくと想像できるのです。

 

遠い将来に残されているのは、高齢者と低所得者が住民の圧倒的多数を占める廃墟のようなマンションでしょう。神戸市が心配するとおり、最後には解体もできない巨大な廃棄物となるかもしれないのです。「廃棄物」という言葉は過激かもしれませんが、都市計画の視点からも、不動産の資産価値の視点からも神戸市の条例は的確であるといえるかもしれません。

 

では、この条例は個人のライフプランにどのような気づきを与えてくれるでしょうか。マイホームを購入するときのひとつの視点を、事例を紹介しながら説明していきます。