▼港町、厩舎
女騎士「こいつが町でいちばんの駿馬か。よしよし、いい子だ」
馬「ブルルッ」スリスリ……
飼育員「おおっ! 気むずかしいこの馬がすぐに懐くとは珍しい」
女騎士「この子には少し無理をさせてしまうかもしれないが……」
飼育員「銀行家さんの頼みなら喜んでお貸ししますよ」
黒エルフ「馬では長距離は走れないって、あんたが言ったのよ?」
女騎士「普通の馬と騎手ならば、な。……しかし手綱を取るのは私だ。途中の村で馬を乗り換えれば、一晩で帝都まで行けるだろう」
黒エルフ「はあ? 旅先でそんな簡単に馬を借りられるはずが──」
女騎士「なに、ものは試しだ」
ヒョイッ
黒エルフ「ヒョイ……って、どうしてあたしを馬の背中に!?」
女騎士「一緒に行くからに決まっているだろう」
黒エルフ「た、高い……ケモノ臭い……。降ろしてよぉ!」
女騎士「どうした、馬は苦手か? こんなに可愛い動物なのに」
黒エルフ「べ、別に苦手じゃないわよ。ただ慣れてないだけで……!」
女騎士「では、この機会に慣れるといい。馬は愛すべき人類の友だぞ」
黒エルフ「あたしは人類じゃなくてダークエルフよ! ていうか、銀行家さんを連れていきなさいよ! 銀行の経営者なんだから!」
銀行家「じつは私塾設立に向けた会合がありまして……」
黒エルフ「私塾? いったい何の話!?」
女騎士「それに体重の軽いお前のほうが、馬が速く走れる」
銀行家「というわけで、よろしくお願いします」
黒エルフ「」
女騎士「よっせ……と」ヒョイ
黒エルフ「う……。あんたの胸が背中に当たるんだけど?」
女騎士「少しは座り心地がよくなればいいが……」
黒エルフ「あんたのプレートメイルのせいで、硬いし冷たいし最悪だわ」
女騎士「あはは。文句を言うな、この先もっと悪くなる。手袋はしたか? 手の皮が剥けるぞ」
黒エルフ「えっ、手の皮が? そんなに激しく揺れ──ひゃあ!?」
女騎士 ハイヨー!
馬 ヒヒーン!!
銀行家・幼メイド「「行ってらっしゃいませ〜」」
パカラッ パカラッ
黒エルフ「……ま、待ちなさいよ!」
女騎士「なんだ?」
黒エルフ「ぜ、全力疾走は数分間しかもたないんでしょう!?」
女騎士「うむ」
黒エルフ「だったら──」
女騎士「心配ない。私は騎乗スキルLv5だ」
黒エルフ「騎乗スキルLv5」
女騎士「どんな乗用動物にも乗れる。さらに常在型の回復魔法で動物の疲労を軽減できる」
黒エルフ「あんた魔法が使えたの!?」
女騎士「いいや、普通の魔法はさっぱりだ」ドヤァ
黒エルフ「ドヤることじゃないわ!」
馬 ヒヒーン!!
黒エルフ「ひぃ〜! と、飛ばしすぎよ!」
女騎士「あまり喋ると舌を噛むぞ」
黒エルフ「なら、せめてもう少しゆっくり……」
女騎士「なんとしても帝都に行くのだろう?」
黒エルフ「ぐぬぬ」
パカラッ パカラッ