▼帝都
ショタ王「国債発行の首尾はどうだ」
財務大臣「何ら問題なく進んでおります。新たな戦艦の建造と兵士の募集も順調です」
ショタ王「陸海両軍の元帥から話は聞いている。この調子なら、半年を待たずして新大陸に大部隊を送り込めるそうだな」
財務大臣「副都を奪還する日も近いかと」
ショタ王「開戦から100年か……」
財務大臣「よく勉強しておいでですね」
ショタ王「ぼくは王さまだぞ。この程度の歴史、家庭教師に教わらずとも知っている。そういう大臣こそ、きちんと歴史を学んでいるのだろうな? たとえば……新大陸が発見されたのはいつだ」
財務大臣「120年前でございます」
財務大臣「およそ120年前、冒険者たちは西の大海の向こうに新大陸を発見しました。誰も住んでいない大陸東部の沿岸に、わが国の入植地が次々と作られました。肥沃な大地は豊かな実りをもたらし、飢餓と窮乏は過去のものになるかと思われました。しかし……」
ショタ王「……入植開始から20年後、内陸部の山脈の向こうから突如として魔族の群れが現れた」
財務大臣「彼らは『魔国』を自称し、人間国に宣戦布告しました」
ショタ王「それから100年、ぼくたちは戦争を続けている」
財務大臣「流れた血を無駄にしないためにも、必ずや勝たねばなりません」
ショタ王「今回の国債は、政府の側で決めた金額を買うよう勧告しているそうだな」
財務大臣「戦費を確実に集めるためです」
ショタ王「不満が出なければいいが……」
財務大臣「相手は金持ちです。本来なら徴税してもいいところを、国債という形にしているのです。不満はありますまい。……何より、嘆願さえすれば購入額を変更できるのです。どうかご安心を」
ショタ王「ならばいいのだが……」
財務大臣(とはいえ、嘆願の受け付け期日はわざと短く設定しましたがね。ふふふ……)
▼港町、銀行家の書斎
女騎士「地図を出してくれ」
幼メイド「はいなのです〜」
バサァ
銀行家「ここが港町、こちらが帝都です」
黒エルフ「帝都に向かう街道は、丘陵地帯を大きく迂回して延びているのね」
銀行家「隊商の馬車なら6日、早馬でも3〜4日はかかるはずです」
黒エルフ「たしか、街道の途中には関所もたくさんあるのよね?」
女騎士「うむ、関所を通るたびに通行料を取られる」
銀行家「通行料の金額で揉めたり、待たされたりすることが多く、それも帝都までの旅に時間がかかる原因になっています」
黒エルフ「丘陵地帯を突っ切ったら? かなりのショートカットになると思うのだけど」
女騎士「いや。地図では分からないが、この辺りには急峻な崖地が何ヶ所かあって、道を分断しているのだ。かえって時間がかかってしまうだろう」
銀行家「整備された街道を使うほうが早い、ということですね」
幼メイド「てんいの魔法を使えば、いっしゅんでどこにでも行けるそうですよ~」
銀行家「2代前の勇者様は転移魔法を使えたそうですね。しかし、ここ数十年、転移魔法を使える者は生まれていないはずです」
女騎士「ワープのひもはこちらの大陸では手に入らないし……」
幼メイド「それなら、ハトさんはどうですか~」
女騎士「たしかに伝書鳩なら1日で飛べる距離だな」
黒エルフ「ダメね。伝書鳩がきちんと手紙を届けられる確率は五分五分ってところよ。重要書類の送付には使えないわ」
幼メイド「では、お馬さんは~? 人の2倍、3倍の速さで走れると教わりました~」
黒エルフ「いいえ。あたしも乗馬には詳しくないけど……。たしか、馬が全力疾走できるのはせいぜい数分間なのよね?」
女騎士「普通の馬ならそうだな。人は一昼夜走り続けることができるが、馬にそれをさせたら体を痛める」
幼メイド「しょーとかっとはダメ。魔法もハトさんもお馬さんもダメ……」
銀行家「万事休すですね……」
黒エルフ「ああ、もうっ! 明後日までに帝都に行かなくちゃいけないのに!」ムキーッ
女騎士「……私なら、間に合うかもしれない」
一同「「「ええっ!?」」」
女騎士「銀行家さん、力を貸して欲しい」