相続の話し合いで発覚する呆れた事実
父親の葬儀が終わって1ヵ月が過ぎたころ、相続の話し合いが持たれました。
「父親が受け取っていた老齢年金と、現金や不動産などの財産はすべて目録を作り、法定相続の基本どおりに分割します」そう内縁の妻Tさんに告げました。Tさんは無表情のままです。
驚くことに父親の銀行口座にはほとんど残高が残っていません。父親Sさんの介護費用に使ったとTさんが説明するのですが、いままで負担してきたのは長女Rさんです。そして5,000万円程度あったはずの退職金もありません。こちらもやはり介護費用に使ったとTさん。
そのやり取りを聞いて呆れた長女Rさんが出してきたのは、保険会社から毎年届いていた「生命保険の内容のお知らせ」です。そこには一時払い生命保険の内容が記載されていました。契約日を見ると、認知症の診断が下ったあとです。Tさんが誘導して認知機能が衰え始めた父親に契約させたのかもしれません。
生命保険の死亡保険金は、受取人固有の権利として遺産分割の対象外となります。5,000万円を掛け金として支払い、死亡時に5,500万円が死亡保険金として支払われるという契約内容で、死亡保険金受取人は内縁の妻たるTさんです。
つまり、この5,000万円は遺産分割の必要がなく、Tさんが合法的に受け取れるということです(納税義務はあります)。
結局残されたのは150万円ほどの現預金と、築50年の自宅と土地のみでした。父親の老齢年金がどこに行ったのかはわかりません。Tさんの横領行為として損害賠償請求を行えるか弁護士に相談していますが、回収は困難かもしれないと言われています。認知機能が低下した父親と契約を交わした行為について生命保険会社の責任を問えるかという点にも、状況を鑑みるとやはり難しいだろうという返事です。
YさんはTさんを自宅から退去してもらうことですべてを飲み込むことにしました。
「いろいろと嫌な思いをしたが、胃ろうを選択しなかったことで家族が守られたような気がする。親父ならこの現状を見てこれが正しいと言うはずだよ。延命させられてお金だけを取られ続けるなんて、本人が一番可哀想だよ」そう長男Yさんが言います。
「Tさんはなぜあんなことをしたのだろうね。親父の死に際を汚すところだった」
Tさんとしては、結婚を長男に拒まれたことで、頑なな感情に囚われたのかもしれません。しかし、どのような事情があろうとも、人生の終末期において他人が本人の意思を無視するようなことはあってはならないのです。
終末に向かっていく介護のなかで、介護を受ける本人の意思を尊重するのが本当の理想でしょう。しかし現実にはお金の問題、感情の問題が絡み合い、本人の意思など二の次になってしまうこともあります。特に延命のための処置が本当に本人にとって幸福なことなのか、何度でも家族で話し合うべきかもしれません。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表