誰にでも死は訪れます。大切な家族の最期のあり方を想像したことがあるでしょうか。もし認知症などにより本人の意思確認が困難となったとき、延命処置を施し生き永らえさせることについて、どう考えるでしょうか? 本記事ではYさん家族の事例とともに、終末期の介護の実態を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
延命を願った「妻」…年金20万円の認知症終末期・85歳夫の「胃ろう」、50代の子どもたちは望まなかったワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

再婚は認めない

驚いた長男Yさんは、2人きりのときに父親に言います。

 

「お父さん、ちょっと再婚が早すぎるんじゃないのか。あの女性と交際するのは構わないが一緒に住むとか、結婚するとか、そんなのは勘弁してくれよ」

 

すると父親はこう言いました「Tさんは最近子供さんを亡くされて寂しいんだ。寂しいもの同士、一緒に暮らさせてくれ」。どこか物悲しそうな父親の表情を見て、長男Yさんはふと思いました。

 

「もしかしてそのTさんという女性と親父は不倫関係だったんじゃないのか。そして亡くなった子供というのは親父の子供、つまり隠し子というものなのではないのか。親父は若いころお金もあったし遊んでいただろうからな……」そう問い詰めようとしてやめました。

 

父親とTさんがどんな関係だったのかは知らないが、結婚だけは認めない、譲歩して一緒に暮らすのは認める、そういうことにしたのです。結婚を認めなかったのは、父親Sさんには相当な財産があると思っていたからです。相続時に配偶者の位置に赤の他人がいるのは許せません。その財産は父親と母親が苦労して築いたものです。

 

その2人の同居から2年後に父親は経営していた工務店を、番頭をしていた従業員に事業承継し、退職金をもらって勇退。そこから10年後に認知症を発症したのです。

 

老老介護はすぐに限界に…

認知症が中期に入った当時、74歳になっていた内縁の妻Tさんが、パートナーであるSさんを施設に入れるなどとんでもないと大反対したのです。

 

「病状がどんなになっても私がお世話できます。あの人とは12年しか一緒に過ごせてないの。もっと私にできることをさせてちょうだい」そうTさんが涙を浮かべて長男Yさんに訴えました。

 

そこまで言うのならばと在宅介護を継続することにしたのですが、実態は老老介護です。Tさんの体力が続くわけもありません。そこで見かねて実家に戻り介護に加わったのが、地元に住んでいた長女のRさんでした。

 

当時45歳だった長女Rさんは未婚。10年以上同棲していた男性と別れ、うつ状態となっていたせいか仕事もやめていました。行き場所がないという事情もあったのでしょう。実家に戻り、父親の介護をすることになったのです。