すべての卵をひとつのカゴに入れてはいけない
これらのことを念頭に、私はフェルナンドに言った。
「君の熱心さには感心するが、S&P500のリターンが長年にわたってどれほど良かったとしても、君の資産を100パーセントそこに注ぎ込むのは問題だ。君は資産にもう少し多様性を持たせたくなるはずだ。すべての卵をひとつのカゴに入れちゃいけないことについての諺を聞いたことがあるだろう?」
クリスティーナは通訳を止めて言った。「もちろん。スペインの格言よ。『ドン・キホーテ』に由来するのよ。スペイン語ではこう言うの。No pongas todos tus huevos en una canasta」その瞬間、ゴルディータが割って入った。「卵をひとつのカゴに入れるな? それがどうしたの、ジョルディ?」
「素晴らしい!」と私は答えた。「よし、君たちはみんなこの言い回しを知っているんだな!こんなに的を射た言葉は他にないと俺は思う。何も投資のことだけを言っているわけじゃない。これは人生のすべてに当てはまる。例えば、ヴィットリオだ。ところでヴィットリオはどこに行った?」
「あなたの真後ろにいるわよ」とクリスティーナ。「自分のiPadで遊んでいるわ」振り返ると、確かに彼はそこで床に座り、スペイン語のアニメを見ていた。彼が一音節も漏らさずにセリフを繰り返すのを私はしばらく眺めていた。2歳にしては素晴らしい成長ぶりだと思った。そしてみんなのほうに振り返って言った。
「いつかヴィットリオが大学に入る頃、君たちはひとつの学校だけに出願するわけじゃないだろう? 少なくとも1校には絶対に入れるようにたくさんの学校に願書を送るはずだ。簡単な理屈だよ。友情についても同じことが言える。人生でたったひとりしか親友がいないなんて嫌だろう? なぜか。それは、何かの拍子でその友情にヒビが入ったら、つるむ相手が誰もいなくなってしまうからだ」そしてクリスティーナの通訳が追いつくまでしばらく間を置いた。
数秒後、フェルナンドとゴルディータは二人ともうなずいた。クリスティーナも。素晴らしい、と私は思い、続けた。「いずれにせよ、これは重要なポイントだから、例はいくらでも挙げ続けられる。例えばモルモン教徒。彼らの中には三人や四人の妻を持つ者がいて、彼らはみんなそれに納得しているようだ。数億もの精子にたったひとつの卵子を追わせることの進化上の利点はさておき……」。
モルモン教の一夫多妻制の生物学的利点についての私の考えを披露しようとしたところで、妻の表情が困惑から怒りへと変化していくのに気づいた。さらに悪いことに、私が止める間もなく、彼女は私の発言をゴルディータに復讐を込めて通訳し始めた。数秒後、フェルナンドは大声で笑い始めた。しかしそれはすぐに止んだ。ゴルディータが怖い目で睨みつけたからだ。そして彼は私を見て肩をすくめた。空気を和らげようと、私は仲裁人の口ぶりでクリスティーナに言った。
「君たち、焦点がずれているよ。俺が言いたかったのは、500社もの企業が含まれているという点でS&P500は充分に多様化されているけれども、それでも、株式だけで構成されているため、ひとつのカゴに入って全部が上がったり下がったりしがちだから、すべての卵をひとつのカゴに入れてはいけないんだ!」
完璧だ!と私は思った。ひとつの文に二つのカゴ。助かった。「それが俺の言いたかったことだ!」
ジョーダン・ベルフォート
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