公益財団法人、生命保険文化センターの調査によると、2人以上世帯の持家率は約7割。多くの人が手にするマイホームですが、高齢期に悩みのタネとなってしまうケースは少なくありません。一体なぜでしょうか? 本記事ではTさん夫婦の事例とともに、住宅購入のライフプラン上での注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
家賃5万円の社宅でコツコツ貯金。定年後に理想のマイホーム購入!元大企業部長の夫、妻と固く手を握り合うも…75歳、ようやく気づいた「取り返しのつかない過ち」、夢破れた苦しい老後【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

売れる見込みのない「こだわりの我が家」

ネットで自宅の買い取りをするという業者の広告を見つけ、すぐに連絡したところ、あっけなく回答が届きました。

 

1,700万円――それでは土地値にもならないじゃないか、ふざけていると憤慨するTさん。しつこく電話の勧誘が来たため、これでは買い取り価格が低いと文句を言うと、こう返されたのです。

 

「Tさんの家を買い取ったら我々がリノベーションして販売するのですが、家が大きすぎるうえに間取りが特殊のため、すぐに買い手がつく自信がありません」そこでハッとしました。注文住宅で建てたTさん邸は一般的な核家族には不向きな間取りなのです。LDKが広いのはいいものの、子供部屋として使える個室は1つだけ。言ってみれば65坪の巨大なワンルーム住宅です。

 

開放感のある吹き抜けがあるため冬の暖房費は一般的な住宅の2倍はするはずです。固定資産税も安くはありません。火災保険も高額です。高齢の夫婦が贅沢に暮らすための間取りで作ったこの家は、20代30代の子育て世代には選択肢にも入らないでしょう。

 

実際、Tさん夫婦の2人の子供は、この家を見て「非日常すぎる」と笑っていました。

 

不動産会社で仲介をしてもらい売却を考えましたが、やはり担当者の意見も同じでした「目の保養程度で内覧の申し込みはあるかもしれませんが、5,000万円で売却はむずかしいでしょう」。

 

不動産会社が追加で指摘したのは、駅から遠いこと、都心への通勤には遠すぎて不便であることでした。もちろん5,000万円では安すぎるような立派な邸宅ですが、立地も建物も特殊過ぎると売れないのです。売却を考えてから1年が経過してもいまだに売れていません。内覧こそ10名以上が訪れましたが、大胆な間取りに一様に驚き、「金持ちの道楽住宅」などと揶揄されて帰っていきます。

 

「お金持ちの中国人でも買ってくれないものか……」毎日そんなことも考えます。


妻Rさんの体調は確実に悪くなっており、疲れ果てているTさんですが、そろそろ老人ホームの質を妥協しなければならないのかと諦めつつあります。2人の子供はどちらもすでに自宅を購入しているため、Tさんの家を相続することは拒否するでしょう。価格に納得がいかなくても早く手放す必要がありそうです。

 

前述したことを繰り返すと、

 

・賃貸暮らしの場合は、老後の住まいを確保すること
・持ち家暮らしの場合は、老後に家を手放す手段を計画すること

 

これがライフプラン上の住まいの計画で非常に重要なポイントなのです。戸建てでもマンションでも、持ち家を手に入れても一生住み続けられない可能性があることに注意が必要です。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表