公益財団法人、生命保険文化センターの調査によると、2人以上世帯の持家率は約7割。多くの人が手にするマイホームですが、高齢期に悩みのタネとなってしまうケースは少なくありません。一体なぜでしょうか? 本記事ではTさん夫婦の事例とともに、住宅購入のライフプラン上での注意点について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
家賃5万円の社宅でコツコツ貯金。定年後に理想のマイホーム購入!元大企業部長の夫、妻と固く手を握り合うも…75歳、ようやく気づいた「取り返しのつかない過ち」、夢破れた苦しい老後【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

妻の変化

最初は小さな変化でした。もともと几帳面な性格で料理上手だった妻Rさんでしたが、味付けが安定しなくなったのです。味がまったくしないと思ったら調味料を入れるのを忘れていたり、そうかと思うと違う日には食べられないほど塩辛かったり。

 

「お母さんも年だし、ボケてきたんじゃないか」と夫Tさんは笑って気にする様子はありませんでした。しかしその後、さらに心配になる場面が増えていきました。

 

妻Rさんは軽自動車に乗って買い物に行くのが日課でしたが、ある日夫Tさんがふと車を見ると、フロント部分が大破しているのです。バンパーカバーは外れかかっていて、片方のフロントライトが見当たりません。「これ……どこで事故を起こしたの? 相手はどうしたの?」夫Tさんがそう質問しましたが、妻Rさんは事故などないと言い張るのです。

 

当て逃げをしていたらいずれ警察が訪ねてくるだろうと思いましたが、誰からも被害の訴えがありません。とりあえず30万円を費やして修理をしました。

 

決定打となった警察からの連絡

今度は事故ではなく、暴走運転の現行犯で警察に捕まったと連絡があったのです。警察官による説明では、歩道を時速40キロで走行し続けたとのこと。「道が混んでいたので仕方なかった」と妻Rさんが説明するのを聞いて、夫Tさんはやっと妻の不調に気づきました。

 

免許の返納を検討しなさいと警察官に諭されると、妻Rさんは警察署のロビーで発狂するように大声で怒り始めたのです。「これはだめだ……」と思った夫Tさん。後日病院に一緒に行くと、そこで妻Rさんは軽度認知障害(MCI)を越え、初期の認知症であるということが判明したのです。

有料老人ホームの入居を考えるも…

免許の返納も軽自動車の処分も嫌がっていた妻Rさんでしたが、なんとか運転を辞めさせることに成功しました。しかし日々、暴言を吐いたり、被害妄想を募らせ怒り出したりする妻に疲れてきた夫Tさん。妻と一緒に生活できる老人ホームはないかと探すようになりました。

 

しかし問題は費用のこと。夫婦で入居できる介護付き有料老人ホームで気に入ったところがありましたが、その費用は、

 

・入居金 4,000万円
・月額利用料 55万円

 

というもの。妻だけが入居するともっと安く抑えることができますが、おそらく妻の残りの人生は長くなく、なるべく一緒にいる時間を確保しようと思ったのです。この費用を支払うためには家を売却する必要があります。もし5,000万円程度で家が売れると、現在の預貯金4,500万円と合わせ9,500万円となります。公的年金を合わせると十分な資金となるはずです。

 

「8,500万円もかけてこだわった家なのでそれなりの値段でうれるはず。おりしも住宅価格が高騰している時期なのできっと大丈夫だろう……」そう考えていましたが、すぐに現実を知ることに。