健康寿命を終えたとき、マイホームは突然重荷になる
会社員の場合、ライフステージは大きく2つにわけられます。現役時代と定年退職後です。現役時代は安定した収入がある一方で、定年退職をすると多くの場合、使えるお金は公的年金と預貯金のみになります。そのため定年退職までに資産形成に励み、その資産を取り崩しながら公的年金を合わせて老後生活を送っていく必要があるのです。現役時代と比べ定年退職後は収入が激減するため、現役時代のライフスタイルは続けられなくなります。
持ち家派が特に主張するのはこの部分でしょう。収入を失う老後に備えた資産形成のひとつとして家を買っておくべきと考えています。定年退職時までに住宅ローンを完済することさえできれば、その後は家賃が不要で、人生になにがあってもとりあえず雨風をしのげる居場所を確保できるのです。これは大きな安心感です。
一方、賃貸派は老後に賃貸を借りられなくなるかもしれないという視点が抜けていることがあります。定年退職後に家賃の負担が重くなると同時に、高齢者には貸したくない賃貸オーナーが増えるため、住まい確保の不安がつきまといます。賃貸派は老後の住まいをどうするのか、真剣に考えておくべきでしょう。
しかし持ち家派が見落としている部分もあります。それは、収入が激減する老後にも持ち家を維持するのは莫大な費用がかかるということです。戸建て住宅であれば屋根・外壁の塗り替え、エアコンや給湯器などの交換、太陽光パネルの交換があります。マンションであれば管理費や修繕積立金の負担が続くでしょう。老後の持ち家の維持は簡単ではありません。
そして、持ち家に住み続けるためには「健康」が不可欠です。
意外に短い持ち家に住み続けられる期間
戸建て住宅の場合は、2階、3階に階段で登れる運動能力があるかどうかが重要になります。ケガなどによって障害を持つと、2階部分の寝室に行くことすら不可能になりかねません。タワーマンションの場合は、もし高層階に住むと急病の際に救急隊が到着するまで時間がかかります。特に心臓疾患の場合は命を落とす割合が高く、階によっては生存率0%であるという海外のデータも存在します。また、キッチンがガスコンロを使用している場合は、認知機能の低下によって火災を起こす危険もあるでしょう。夫婦ともに認知症となったら持ち家に住み続けることは現実的ではありません。
せっかく定年退職までに住宅ローンを返済し終えたとしても、持ち家に住み続けられる期間が意外と短いのです。健康寿命という言葉がありますが、「健康ではない期間」に入ると、持ち家はむしろ重荷になるかもしれません。持ち家を手放し安全で快適な老人ホームに引っ越ししたいところですが……現実はそう簡単ではないようです。
ここからは健康寿命を終えた老夫婦が、持ち家を処分するために大変な苦労をしている事例をご紹介します。