年収1,800万円だった元大企業部長、妻と協力して貯めた1億6,000万円
<事例>
夫Tさん 75歳
妻Rさん 72歳
住まい:60歳時に購入した戸建て住宅
現在の預貯金 5,500万円
夫Tさんは首都圏近郊に住む元会社員です。60歳で定年退職するまで、大手自動車部品メーカーに勤務していました。会社員生活の最後は部長として定年退職を迎え、当時の年収は1,800万円。現役時代はお金に困ることはなく生活できていました。
家族は妻Rさんと、現在は独立して家を離れた長男と長女です。妻は専業主婦。長男は北海道の大学に進学し、そのまま北海道に定住してしまいました。すでに結婚し子供もいるため、もう首都圏には戻ってこないつもりのようです。
長女は京都の大学に進学し、やはりそのまま京都で結婚し定住しました。小学校の教員となり自宅も購入したため、長男と同じくもう戻ることはないでしょう。
夫Tさんは定年退職まで会社の社宅に住んでいました。勤務先まで電車で15分という好立地で気にいっていたのです。家賃は毎月5万円程度。周辺の賃貸マンションであれば、似たような間取りで月22万円程度ですから、かなりのお値打ちです。夫Tさんとしては、定年退職まで社宅に住み、その後は落ち着いた場所で注文住宅を建てる計画がありました。本当であれば早くに広い家を買うべきだったのかと思うこともあります。子供2人が大学進学後に実家に寄り付かなかったのも、社宅の狭さゆえだったのかもと少し後悔があります。
60歳で定年退職をしたあと、雇用延長は断りリタイア生活を楽しむことにしました。定年退職時の預貯金は退職金を含めて約1億6,000万円。会社の持ち株は1,000万円ほどでした。老後生活を始めるにあたっては十分な額といえます。
定年退職する1年前からTさん夫婦は大手住宅メーカーと商談し、郊外の100坪の土地に延べ床面積66坪2階建ての注文住宅を建てました。費用は8,500万円。「2人で住むのにこんな大きな家じゃなくていい」と妻Rさんは当初難色を示しましたが、夫Tさんにとっては理想の家づくりでした。
老後の理想が詰まった家をオールキャッシュで購入
広いお風呂、40帖のLDK、中庭からバルコニーに上がる階段がつき、バルコニーではのんびりと読書ができます。玄関ホールだけでも社宅時代のリビングほどの広さ。15年前の価格で8,500万円なので、ウッドショックとコロナ禍を経た現在では軽く1億円を超えるような物件です。
購入資金はオールキャッシュでした。それでも手元に残ったのは9,500万円。公的年金と合わせると、贅沢をしなければ十分暮らしていけるはずです。60歳までに掛け金を払い終えた2,000万円の終身保険もあるため、万が一、夫Tさんが亡くなっても妻Rさんは保険金を受け取りこの家で生きていけるはずです。
妻Rさんが憧れていたガーデニングも、ささやかながら庭で始めました。春先に一斉に咲くチューリップがお気に入りです。「自分の家って素敵ね。最初は反対して悪かったわ。いままで我慢してきた分、こんなに素晴らしい家に住めて私、幸せよ」Rさんが言います。自分自身も満足している夫Tさんでしたが、喜ぶ妻の姿を見ていると、Tさんも幸せな気持ちとなり、頷きながらRさんの手を固く握りました。妻Rさんも微笑みながら握り返してくれます。
海外旅行に行けるのは若いうちだけと年に2回のペースで出かけていました。無駄遣いには気をつけていましたが、健康ないましかできないことを、お金を使って思い切りしてきたつもりです。
そのようにしてスタートした老後生活は幸福そのものに見えましたが、定年退職から15年後、問題が発生します。