2024年8月に入ってから、日経平均株価の乱高下の話題で持ち切りです。投資家……なかでも新NISAスタートと同時に投資デビューをした投資初心者たちにとっては、気が気でない人も多いでしょう。このままNISAを続けるべきなのか? そんな疑問を抱えているかもしれません。本記事ではAさん夫婦の事例とともに、投資を続けていくべきか否かの判断基準について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
「メンタルが持たない」「怖い」「騙された」NISAデビューも、早々に狼狽の投資初心者たち…インデックスファンドを買っていた、世帯年収970万円・30代夫婦による〈大暴落後〉の速やかな英断【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

Aさん夫婦がNISAを続けるべきでない理由

FPがいうには、Aさん夫婦には今後次のような支出が待ち構えています。

 

・直近……自動車の買い替え
・4年後……自宅の屋根と外壁のメンテナンス
・4年~6年後……エアコンや給湯器など設備の交換
・5年後……長女の私立高校入学
・8年後……長女の大学入学
・9年後……次女の私立高校入学
・12年後……次女の大学入学
・10年後~12年後……自動車の買い替え、屋根と外壁のメンテナンス、設備の交換

 

これらを支払うためには現金が必要ですが、そのための備えがAさんにはありません。

 

「教育費は学資保険の代わりにNISAで増やして対応しようと思ったのですが、どうでしょうか」とAさん。

 

「理屈としては間違いないのですが、娘さんが18歳になるときに株価の大暴落が起きないことが条件になります。大学入学の時期は浪人しない限り固定されています。そのときに運よく資産が減らなければいいのですが、もし大暴落していてもAさんに現金がないため損切りしてでも売却する必要があります」。

 

なるほど、と妙に感心してしまうAさん。

 

「大学入学までにも自宅建物のメンテナンスが待っています。また、住宅ローンの変動金利が上昇を始めたため、一部繰上げ返済ができないと影響を被ってしまいます。AさんはNISAよりも預貯金を優先すべきかと思います」。

 

これまでAさん夫婦が預貯金を作れなかったという点については、FPは特に問題視しませんでした。多重債務に陥り、借金を借金で返済する状態でもない限り、預貯金が少ないのは生活を充実させた証拠と見てもいいはずです。Aさん夫婦は決して「幸福の沸点が低い」わけではなく、「お金を使って幸福を沸かした」タイプなのでしょう。

 

「それを聞いて納得です。とはいえ、このままでは生活を維持するのが精いっぱいで、老後資金が貯まりません。なにかいい投資はないものでしょうか」Aさんが質問しました。

 

もしAさん夫婦が無理に節約生活をはじめたとしたら、預貯金もでき、NISAを継続することも可能かもしれません。できることなら現在のインデックス投資は手数料も安いため、継続して積み立てていくほうがベストです。現在の生活レベルを変えないとするなら、老後資金のためにやるべきことは「収入を増やすこと」しかありません。

 

「収入を増やすには、副業ですかね。いま流行しているようですけど」Aさんがいいます。

 

収入増のためには、副業よりも優先すべきことがあります。それは妻Mさんの就職です。現在のパート収入120万円を、320万円にするだけで十分のはずです。手取り年収から100万円だけ資産形成に回すことができたら、家計が変わります。利回り0%でも65歳までに3,100万円が貯まります。年2%で運用できたら、65歳のときには4,100万円を超える計算です。

 

現金の預貯金と日々のやりくり、楽しみの部分はこれまでどおり夫Aさんの収入でまかない、妻Mさんの収入は手取りの半分を資産形成に回すだけで老後資金は十分貯まるでしょう。

 

資産形成には、家計のキャッシュフロー(収支の流れ)を確認しつつ、収入をまずは増やして運用に回せる資金を確保する、次に安い手数料で長期のインデックス運用をする、という順番を守ることが重要です。預貯金があり、当面の家計収支に問題がなければ、短期的な株価の乱高下でパニックに陥ることはなくなります。まずは預貯金を作ることが優先です。

 

「納得しました。いまはNISAをやめ、妻の就職を最優先に考えようと思います」

 

収入を増やすことができない場合のみ節約を行うべきですが、節約は長続きしないケースが多く、お勧めしません。配偶者が就職する、あるいは副業を取り入れるなどによって、可処分所得を増やすことを考えるべきです。
 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表