2024年3月、日銀の異次元緩和が終了し17年ぶりに利上げが実施されました。そして7月の追加利上げ。そうなると、多くの人が気になるのが住宅ローン金利への影響です。なかでも、住宅ローン利用者の7割の人が利用する「変動金利」へは、どのような影響をおよぼすのでしょうか? 本記事ではSさん夫婦の事例とともに、日銀の利上げによる住宅ローンへの影響について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
〈日銀利上げ〉変動金利を選んだ年収650万円の42歳会社員、マイホームを失う日までのカウントダウン…「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、詰みました」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

アメリカの景気悪化懸念が円高と株安に…最もインパクトのあるタイミングでの「利上げ」

日本銀行は2024年7月31日の金融政策決定会合で、追加利上げを決めました。無担保コール翌日物の誘導目標は0.15%上がり、0.25%に。同時に円高への進行、米国景気が後退する懸念も受けて、8月5日の日経平均株価が4,451円安という大暴落といえるような、下げ幅を記録したのはご存じのことと思います。この下げ幅は史上最大です。

 

しかし大暴落といっても別に想定外の災害ではありません。投資をしている以上、定期的かつ高確率で起こりうるリスクのひとつです。数十年間というスパンで見ると何度も価格変動が起こるというのは投資知識の基礎中の基礎のはず。

 

ところがSNSでは「新NISAは政府の陰謀だった」などという陰謀論まで飛び交う阿鼻叫喚の様相。ここ数年は日本人にも投資が身近になったように見えたようで、実のところ金融リテラシーが低いまま、高利回りが永遠に続くと勘違いしていた人達が相当数いるのではないかと想像できます。

 

日銀総裁は「ある程度見通しどおりであることが判断できれば、そこで次の判断をしていく」と発言していることから、今後も追加利上げがあるものと判断できるでしょう。最終着地地点は1%であると考えている専門家が多いようです。投資環境はさらに先行き不透明に、難易度が高くなっているといえます。

 

先行きが不透明になっているのは投資環境だけではありません。無担保コール翌日物と関係性が深い住宅ローンの「変動金利」も同じです。

変動金利は本当に上昇するのか?

住宅ローンの変動金利は、各金融機関が定める「短期プライムレート」や「全銀協TIBOR」などをもとに決められています。短期プライムレートは無担保コール翌日物を参考にして決定されます。そのため、日本銀行の利上げには影響を受けるものの、すぐに変動金利の上昇に繋がる仕組みではありません。

 

実務としては各金融機関の経営上の都合によって、いつ変動金利を上げるかという判断がなされます。住宅ローンには「基準金利」と「適用金利」の2種類があります。基準金利から優遇幅を差し引いて適用金利が決定されます。住宅ローンを借りた消費者は、適用金利で計算された利息を支払っていくことになります。

 

たとえばauじぶん銀行の場合、基準金利は2.341%ですが、変動金利の新規借り入れの優遇幅はマイナス2.012%、適用金利は0.329%となります。2%もの乖離があるのです。

 

金融機関としては基準金利を上げざるをえない一方で、競争力を維持するために適用金利をなるべく低く抑えたいという思惑があります。既存客に対しても突然適用金利を上げてしまうと、顧客離れが起きてしまいます。また、今後の追加利上げによっては自己破産に至る顧客も少なくないはずです。

 

しばらくのあいだ、住宅ローン市場は金融機関同士の消耗戦が続いていくと思われます。しかしもともと住宅ローンは利ザヤが少ない商品であり、適用金利を0.733%まで引き上げた楽天銀行のように消耗戦からイチ抜けして健全化に舵をとった企業も出始めました。


金利競争の消耗戦も長くは続かず、遠くない将来に適用金利が上昇し、確実に家計に対する負担が重くなっていくと覚悟しておく必要があります。

 

「変動金利は今後も変動しない、低金利のままだ」と信じていた人が多いのではないでしょうか。しかし消費者としては、毎月の返済額が大幅に上昇し家計のバランスが変わってしまう局面に入って来たのは間違いありません。