職場でのコミュニケーションがうまくいかなかったり、話が相手に伝わらなかったりと、「対話」に関する悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。対話をするうえで、自分ばかりが話すのではなく、相手の話をいかにしっかりと聞くことができるかも重要です。フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)より、詳しく解説します。
「すごいですね」「なるほど」→会話を“陳腐”にしてしまいがちだが…あとに付け加えるだけで途端に“会話上手”になれる〈ナイスなひと言〉

全て「すごい」で済ませていませんか?

「聞き上手」になるための方法として、相槌が大切なことをお話ししました。テンポの良い相槌で、ツボを押さえた言葉を投げ返せるようになると、相手との言葉のキャッチボールにもぐんと弾みがついてきます。

 

一方、お互いの投げる言葉の選び方がまずく、相槌が上手く嚙み合わないと、話自体がストップしたり、つまずいたりで、なかなか思うようにいきません。

 

このように話の流れをストップさせる言葉の中で最も多く耳にするのが、お尋ねの「すごい」ではないでしょうか。ビジネスの対話でも、プライベートのおしゃべりでも、何かにつけて「すごーい」をよく耳にします。

 

たとえば、仕事の場で――

 

「この商品、発売早々とても評判がいいんですよ」

 

「すごいですね」

 

 

「デザインに苦心したんですが、どうご覧になりますか?」

 

「すごいですね」

 

――という具合に、この言葉が出た途端、不思議に対話はそこから先へ進まなくなってしまいます。

 

理由は簡単、「すごいですね」というのは単なる“条件反射”のようなものに過ぎず、相手にすれば「どこがどう?」と聞きたくなって消化不良になるからです。背景にあるのは、自分の意見をはっきり表明せず、無難にやり過ごそうというリスク回避の意識か。あるいは、単に色々な言葉を使い分けるのが面倒で、とにかく大げさに反応すれば、褒めているのだから相手も悪い気はしない、と踏んでいるのか。似た言葉に、「やばいですね」あるいは「なるほど」がありますが、「なるほど」を連呼すると、何でそんなに上から目線なんだろう、と誤解される恐れがあるので注意が必要です。

 

最初は“条件反射”を”感想”のレベルまでブラッシュアップしておきたいですね。まずは、きちんとした感想を投げ返すことから始めてみて下さい。それができて初めて、会話が続いていくことになります。

 

難しいことはありません。「すごいですね」と言う時に、なぜそう思うかを自分なりに付け加えてみるのです。

 

先ほど挙げた例で言えば――

 

「この商品、発売早々とても評判がいいんですよ」→「すごいですね、若い人に人気が高いそうで、新しい市場の開拓ですね」

 

「デザインに苦心したんですが、どうご覧になりますか?」→「すごいですね、この部分の色と形に、これまでに無い特徴がありますよね」

 

――こうなれば、相手としても「そうなんです、その点につきましては……」という具合に、やり取りが続いていくでしょう。皆さんも周りで「すごいですね」と表現する人がいたら、すかさず「どこが、どんな風にすごいんですか?」と問いかけてあげると、当人にとっての気づきにつながると思います。

 

その上で、さらに一歩進めて「自分だけの表現」を、少しずつ工夫してみるのもお勧めです。

 

古い話で恐縮ですが、例を挙げてみます。それは、私がTBSで「ニュース23」を担当していた頃の話です。またしても夫のたとえ話となり恐縮ですが、身内で気軽に例として使いやすいためと、ご理解、ご容赦下さい(笑)。

 

その年、投手として日本最速記録を達成した与田を取材に行った日に、筑紫哲也さんから「与田投手の球って、どれくらい速いの?」と尋ねられました。普通なら「すごいんですよ、何と157km!」と答えるところで、私は他の表現を使ってみました。「球場でお客さんにインタビューしたのですが、与田投手が投げると『首が疲れる』と言うんですよ」

 

すると、筑紫さんは「何のこと?」という顔。おそらく、カメラの先にいる視聴者の皆さんも首を傾げたと思います。

 

そこで私は種明かしを。

 

「そのお客さんは、スピードガンの表示が見にくいお席だったようです。だから、彼が一球投げる度に、1回1回、首をひねって確認する必要があったので、『首が疲れる』となったようです」

 

この場合、単に「すごい」を連発するよりも、受け手には強く印象に残ったかもしれません。最初はなかなか難しいかもしれませんが、一つのヒントとして「視点を変える」という意識を持つというのはお勧めです。

 

球速の例で言うと、「15km、すごい!」という数字を使った直球の表現から、「首が疲れる」という変化球の表現へ、見方をちょっとズラすだけでユニークな表現は生まれるものです。

 

ほかにも、美味しい物を食べた時などに、「すごく美味しい!」ではなく――

 

「今日はみんな食べるのに夢中で、口数が少ないね!」

 

と、より実感を込めてみると、誰もが「そうそう」と頷いてくれるでしょう。

 

これからは「すごい」だけで済ませるワンパターンから卒業して、自分なりの表現法を工夫してみませんか? トライすると結構大変なものですが、こういう努力から自分なりの表現や個性が生まれると信じています。私からの宿題です(笑)。

 

 

木場弘子

フリーキャスター