現在、多くの企業が採用している「60歳定年」。その半年ほど前に、再雇用で働き続けるかどうかの意思確認があります。このとき、60歳以降も働き続けるか、それとも引退するかで、65歳から受け取る年金にどれほどの差がでるのでしょうか。考えてみましょう。
月収53万円の59歳・大卒サラリーマン…60歳〈定年退職〉or〈再雇用〉で差がつく、老後の年金受取額「たった5年で、こんなに増えるとは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

60歳から65歳、5年間「厚生年金保険料」を払う効果は?

実際に60歳定年で仕事を辞めるかどうかは、どれほど貯蓄があるかなど様々な背景によりますが、「驚くほど年金が増えるなら、定年以降も働こうかな」という人もいるのでは。そこで、60歳で仕事を辞める場合と、65歳まで仕事を続けるのとでは、どれほど年金に差が生じるか、考えてみます。

 

厚生労働省の調査によると、大卒サラリーマン(正社員)の平均給与は月収で40.8万円、年収で673.6万円です。就職以来、ずっと平均的な給与を手にしてきた2人のサラリーマンがいたとしましょう。59歳時点の給与は月収53万円ほど。60歳で定年を迎えた時点で65歳から受給できる年金額は、老齢厚生年金が月13.6万円ほど。併給の老齢基礎年金が満額受給だとすると、月に18.1万円ほどの年金がもらえる計算です。

 

【年齢別「大卒サラリーマン(正社員)」の平均給与】

20~24歳:24.3万円/356.2万円

25~29歳:28.3万円/474.0万円

30~34歳:32.6万円/549.4万円

35~39歳:37.9万円/645.5万円

40~44歳:42.4万円/704.2万円

45~49歳:46.7万円/774.5万円

50~54歳:50.6万円/839.7万円

55~59歳:53.2万円/879.1万円

60~64歳:44.9万円/690.1万円

※数値左から平均月収/平均年収

 

では、60歳から65歳まで、再雇用で働いたとしましょう。国民年金は基本的に20~60歳の40年間の加入なので、60歳以降に払うのは厚生年金保険料だけになり、仮に月収45万円であれば、月4万円ほどの保険料が天引きされることになります。つまり5年間で払う保険料は240万円ほど。そして65歳から受け取る年金額は老齢厚生年金が15.4万円ほどとなり、年金合計19.7万円ほどになります。

 

ただこれは60歳以降も正社員だった場合。定年後の雇用形態は正社員から契約社員が嘱託社員などに変更になるのが多数派。そこで60歳以降は非正規社員の平均給与を得てきたとしましょう。大卒非正規社員「60~64歳」の平均給与は月収で31.9万円、年収で498.6万円。月々の給与から天引きされる厚生年金保険料は3万円ほどです。そして65歳から手にする老齢厚生年金は14.9万円ほど。合計19.2万円ほどになります。

 

正社員と比べて月5,000円の差が生じますが、60歳定年退職者と比較すると、月1.1万円ほど多くの年金がもらえる計算です。あくまでも単純計算で実際とは異なりますが、1ヵ月で1万円、1年で12万円、10年で120万円の年金差。これが5年間、サラリーマンを続けた成果といえます。さらに60歳以降もサラリーマンを続ければ、その間、給与を得ることもできます。プラスαで貯蓄を増やすことができたり、ローンの返済を進められたりするでしょう。

 

現役世代だと月1万円の差がどれほどのものかピンと来ないかもしれません。しかし収入のすべてを年金に頼る高齢者には、「わずか5年でこんなに増えるとは」と衝撃を受ける金額かもしれません

 

もちろん、この結果の捉え方は人それぞれ。定年退職か再雇用かを天秤にかけ、どちらにするか……老後の生活を大きく左右する決断なので、慎重に検討したいものです。

 

[参照]

厚生労働省『令和5年高年齢者雇用状況等報告』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』