3―おわりに
日本全体で起きている少子高齢化という大きな波は、労働市場や、正社員・正規職員人口の年代別バランスも変化させている。労働力人口を確保するため、政府や経済界はこれまで、両立支援策や女性活躍推進政策を強化してきたが、これらが奏功して働く女性が増えても、少子化による若年層の減少というドラスティックな変化を補うには至っていない。
このような状況の中で、これから企業が持続可能性を維持していくためには、DX化などによる業務効率化だけではなく、人事マネージメント自体を見直す必要があるのではないだろうか。すなわち、採用や教育などで、若年層に集中的に投資するのではなく、ボリュームゾーンのミドルシニアを、十分活用するための新たな投資が必要ではないだろうか。
具体的に言えば、ミドルシニアに対する研修拡充による再教育、重要な職務の割り当て、一律の役職定年の見直しなどが考えられる。管理職登用についても、若手にもチャンスを与えると同時に、例えば50歳代の社員にも門戸を開放することが考えられる。これらは、本人の年齢ではなく、意欲と能力、仕事の成果に合わせて人事マネージメントを行うものであり、高齢者雇用にも適用できる考え方ではないだろうか。
「ミドルシニアの活用」という考え方は、根拠がない訳ではない。定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年 10 月に行ったアンケート「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、大企業で働く女性社員のうち、管理職昇進を希望している人が、50歳代前半で24.8%、50歳代後半で17.7%に上ることが分かった。つまり、50歳代の女性であっても、仕事への意識が高い人が一定おり、企業は、発掘と活用に取り組む余地があると言える。
ミドルシニア社員から見たら、何歳になっても、能力と意欲、仕事の成果次第で、スキルアップやキャリアアップを続ける機会があり、評価や待遇に反映されれば、やりがいを持って働き続けることができるのではないだろうか。
冒頭で述べたように、経済界全体で、「学生の売り手市場」、「若手の人材不足」という課題は共通認識になっていると考えられる。しかし、それ以上に重大な課題は、長期的な少子化による、若年労働力人口自体の減少である。今の10歳代の人口の薄さを考えれば、この問題は、今後さらに深刻化していくだろう。従って企業にとっては、組織における年代別構成の変化を踏まえて、各層の人材活用を見直していくことが求められるのではないだろうか。
また、本稿で説明してきたように、政府や経済界による、仕事と家庭の両立支援策や女性政策は、働き続ける女性を増加させたが、少子化というより大きな課題をカバーするには至っていない。日本の経済社会の維持のために、未婚化への対応など、根本的な少子化対策を講じる必要があるだろう。