日本銀行がマイナス金利政策解除で17年ぶりの利上げをしたことは大きな話題を呼びました。これにより、今後悲惨な状況に陥る人と、数年後に恩恵を受けうる可能性のある人に、二極化するかもしれないそうで……。本記事ではDさん夫婦の事例とともに、住宅ローンの金利上昇がおよぼす各家計への影響について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
父と兄は開業医、世帯年収2,050万円のコネ持ち・恵まれた30代夫婦…7,000万円のマイホーム購入をやめて、堅実に暮らし続ける「まさかの理由」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

FPが目撃した「自己破産予備軍」の住宅購入

FPとして「買ってはいけない人達」に対峙すると、ひどく無力感を覚えたものです。

 

・世帯年収500万円以下
・貯蓄ゼロ
・ローコスト住宅なら買えると思った
・自動車は残価設定ローンで購入
・消費者金融からの借入あり
・妻は「扶養の範囲内」にこだわる
・メンテナンス費用などランニングコストは想像できない
・金利の仕組みがわからない
・金銭面の不安を感じていない
・子供は大学進学を前提としているが奨学金は借りさせたくない

 

このような状況のなかではFPとして役に立つことはなく、アドバイスも求められていないというのが現実でした。家を買ってしまうと家計のキャッシュフローはギリギリ。しかし生活の質はいまよりも相当落とさなければなりません。食費を月に3万円で抑え、自動車を手放し、子供にスマホを持たせることもできなくなるのですが、支出の改善など一切しないままローン返済に突入します。

 

このような家計の状態で今後住宅ローン金利が上昇したらどうなるでしょうか。毎月の返済が1万円上昇することで、もっと苦しくなります。建物のメンテナンスをする貯金はないので劣化が激しくなり、建物の寿命を縮めてしまうでしょう。

 

この人たちの家計が破綻するのは、金利が上昇をはじめて5年を過ぎたころからです。月に7万5,000円だった返済が9万円となるころから、メンテナンス費用や火災保険、固定資産税などを支払えなくなり、子供の大学資金に窮し、家を手放すことになるかもしれません。自己資金ゼロのフルローンであるため、残債を残してしまうオーバーローン状態となります。

 

また2006年から2020年の期間において、「非大卒女性の離婚経験率」は「大卒女性の離婚経験率」の2倍~3倍あったとする研究もあります。ペアローンを借りている夫婦が離婚すると、やはり多くは家を失うことに繋がることはご存じの方も多いでしょう。

 

しかし、皮肉なことにこの状況を迎えたあとはこれから住宅を買おうとする人にはチャンスにもなりえます。

2030年空き家問題とともに始まる中古住宅価格の下落

2030年は団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が相続の時を迎える時期です。日本で最も人口ボリュームの大きなこの世代が次世代にバトンタッチすることによって、生まれるのが「空き家」です。

 

野村総合研究所によると2030年には空き家率が30%になると予想されています。2024年4月30日に総務省が発表した空き家率は13.8%なので、今後急激な増加に向かうことになります。このことにより、住宅は完全な供給過剰に陥り住宅価格が下がっていくという予測されています。

 

さらに前述したような「ローン破綻層」の家が大量に放出されたら、さらに中古住宅は下落します。これらのことによって、2030年から先の住宅購入者にとって価値観が大きく変わる転換期を迎えるかもしれません。

 

ここで住宅購入を見送ったある夫婦の価値観の変化を紹介します。