ローコスト住宅とは
2000年代の初頭から、「日本の住宅は高すぎる」というようなキャッチフレーズを掲げて、格安住宅の供給が流行しはじめました。坪単価は30万円前後と破格。1,000万円を切るような商品まで登場しました。これは「ローコスト住宅」と呼ばれ、業界の常識を揺るがす一大分野として成長しました。価格を安くするために規格化を進め、建築コストを抑えるのが特徴です。ただしローコスト住宅には明確な定義はなく、価格が安いだけの低クオリティの建物もあれば、長期的な耐久性と性能がある程度は備わったものまで存在します。
当時、ローコスト住宅は「住宅にはそんなにお金をかけたくない」という新しい価値観の層に受け入れられたように記憶しています。人気の高級住宅地に大きなお屋敷を構えるのをよしとする価値観から、消費財として割り切り住宅ローンに縛られない自由な生活にしたいという価値観の変化でした。当時は「意識高い系」の購買スタイルだったのです。
ところが、このローコスト住宅、2010年代からは特に地方の中小規模の工務店に大きなチャンスとなりました。会社の規模に対して建築価格が高く、それを売れる営業マンの人材も乏しい中小工務店に対して、仕入れや商品化を含めた総合的な支援システムを提供する企業が増え始めたのです。
中小工務店もローコスト住宅を販売することが可能になり、爆発的に着工棟数を伸ばす工務店が出始めました。数人だった営業マンを数十人規模に増やし、その地域で着工棟数が大手企業を抜くような工務店も出現。それまで年間数棟しか販売できなかったような企業が200棟販売するというような変化でした。
多くの人が新築住宅を手に入れられるという社会的使命は果たした側面はあるものの、一方で問題が顕在化しはじめました。
「家を買ってはいけない所得層」までが家を買う事態に
土地込みで2,000万円程度のローコスト住宅を、世帯年収400万円の家庭に販売するような光景が増えていったのです。当然ながらそれらはペアローンを利用しています。2010年代は住宅ローン金利が固定金利、変動金利ともに下がっていた時期という背景もあります。夫の年収230万円、妻の年収170万円、子供2人という家庭にまで新築住宅を販売することもめずらしくありませんでした。銀行が融資さえ認めてくれたら、貯金も0円の家庭だとしても販売したのです。
ローコスト住宅を販売する会社は非常に多くの棟数を売りさばくため、金融機関、建材メーカーともに依存していくように。金融機関は最長40年~50年という返済期間の住宅ローンを販売しはじめ、ますます所得の低い層が買いやすい環境が整っていきました。
営業マンの倫理観も少々問題が生じはじめました。当時、FPとして「その方は家を売ってはいけない家庭ではないか」と筆者が指摘したところ、「数年後に自己破産したとしても、数年間は家族で新築に住めた思い出が残るからいいだろう」と言い放った住宅メーカー支店長さえいたのが印象的です。もちろん真摯な態度でローコスト住宅を販売する営業マンもいましたが、数多く売るためにさまざまな部分が少々雑になるのは、どの業界にも共通する実情でしょう。