20〜30代で貯蓄がまったくできていないという世帯は少なくありません。さらに、これは収入が特別低い世帯に限ったことではないのです。根本的な原因はどのようなことなのでしょうか? 本記事ではAさんの事例とともに、物価高に負けない家計の回し方を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収650万円“その月暮らし”の30代サラリーマン「子は嗜好品だから?毎日昼飯用のおにぎりを握って節約も、当然家は買えません。もう限界」…中間層日本人の切実実態【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

統計データだけではみえない各家庭の貯金の実態

政府の統計データとして、40歳以下の平均貯蓄額は782万円であるということを先述しました。この貯金を作った方法については統計で知ることができません。

 

FPの相談現場において、世帯主35歳以下の世帯かつ1,000万円以上の貯金がある世帯に限定して質問してみると、主に次のような回答がありました。

 

【貯金を作った方法】

・祖父母からの現金の相続(あるいは相続財産を売却)
・定期的な貯蓄の習慣
・結婚時・出産時の祝儀
・父母の生命保険金
・副業が成功した
・有価証券等が値上がりした

 

このうち、定期的な貯金の習慣、たとえば毎月5万円ボーナス時15万円を貯めていくなどの方法によって自力で1,000万円に到達した世帯は決して多くはありません。それはすべて年収が高い世帯に限られます。

 

そのほかは相続や死亡保険金などの収入や、副業や投資(あるいはその両方)によるものです。

 

年収が高くなく相続や副業などによる収入がない世帯は、思うように貯金が作れないばかりか、Aさん世帯のように資金繰りの負のスパイラルに陥る傾向があります。

 

「生存はできるけれど、豊かな生活には届かず、将来の不安がつきまとう」という気分に苛まれるかもしれません。早く貯金を作る必要があります。

節約や投資で資金繰りを向上させることは難しい

Aさんの世帯が資金繰りの負のスパイラルから脱するためにはどんな行動が有効でしょうか。多くの人が考えるのが、節約、次に投資でしょう。

 

しかしこの2つは決して優先順位の上位にはありません。節約はQOLを落とすことに繋がります。小さな子どもがいる家庭では節約しすぎによる弊害のほうが大きくなります。Aさんの家庭では自宅にWi-Fiがなく、子供にとってのデジタル環境に遅れが出る可能性があります。旅行など家族のイベントを削ってもさほど節約効果がないばかりか、子供の体験の量を阻害するだけでしょう。

 

かつて日本経済が安定的に成長を続け、終身雇用と昇給、退職金が期待できた時代であれば、一時的な節約も家計改善に効果がありました。しかし現代では生活を縮小させても、収入も同時に縮小してしまいかねません。節約だけではリスクが高いのが現実です。

 

また、投資は家計の資金繰りの解決にはなりえません。特に積み立て投資はあくまでも老後資金を多少増やすだけの目的で始めるものであり、毎月の家計を助けるどころか支出を増やすだけで収支を悪化させてしまいます。このように考えると、解決策としては世帯収入を増やすということが有効であるように思えます。