20〜30代で貯蓄がまったくできていないという世帯は少なくありません。さらに、これは収入が特別低い世帯に限ったことではないのです。根本的な原因はどのようなことなのでしょうか? 本記事ではAさんの事例とともに、物価高に負けない家計の回し方を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収650万円“その月暮らし”の30代サラリーマン「子は嗜好品だから?毎日昼飯用のおにぎりを握って節約も、当然家は買えません。もう限界」…中間層日本人の切実実態【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

貯蓄ができない理由

「世帯年収650万円はたしかに高所得ではないけれど、こんなに貧乏な生活になる年収ですか? 世の中の人たちはもっと収入が高いのでしょうか? 昨今、『子供は嗜好品』などともいわれる時代ですが、では、子供がいるからでしょうか? 年収が下がったのは私の退職も原因ですし……」

 

妻BさんがFPに質問します。

 

「いいえ、決して生活ができないような収入ではありません。地方都市であればむしろ上位の年収の世帯です。子供のせいではないといえるでしょう」そうFPが答えます。

 

「ではなぜこんなの苦しいのでしょうか? もう限界なんです」夫Aさんが続けます。

 

FPが指摘したのは、家計管理の基本といえるものでした。

 

「原因はシンプルです。貯金がないから、そこに尽きます」

 

家計のやりくりは単純な足し算と引き算だけでは決まりません。

 

収入-支出=貯金

 

確かにそのとおりですが、実はこれだけではないのです。

 

・月次と年次のキャッシュフローと資金繰り
・月ごとの支払い日が到来するタイミング

 

上記のほうが重要なのは多くの人が気づいていません。家計管理は企業の財務と同じで「資金繰り」が重要なのです。企業が倒産するときは赤字が原因ではなく、資金繰りがショートしたときです。これは家計もまったく同じなのです。

 

AさんとBさんの家計を計算していくと、年単位の収支はなんとか辻褄が合いますが、月単位では赤字と黒字を激しく繰り返しています。車検がある月は大赤字、奇跡的になにもない月は黒字という具合です。

 

家計管理が上手くいっている世帯では、この赤字の月に対応できる「運転資金」を持っています。つまり貯金です。年間の収支は黒字であれば、貯金を運転資金として少し使っても、結果的に貯蓄口座の残高は増えていきます。もし運転資金がなければ、赤字の月に対処が難しくなります。

 

貯金のないAさんとBさんは、運転資金をクレジットカードに頼っています。年間の収支がプラスマイナスゼロもしくはややマイナスであるため、時間の経過とともに家計が切迫していきます。当然貯金はできません。いずれキャッシングやフリーローンが必要になり、その返済でも苦しむことになるでしょう。

 

これが「年収はそれなりにあるのに生活が苦しくなる」世帯の月次キャッシュフローの構造です。

 

これに加えてAさんの場合は、給料日と支払い日のズレの問題もありました。Aさんの勤務先では「末締め、翌10日払い」の給与制度なのです。これに対して、各種支払い日は27日。クレジットカードの支払い日も27日です。

 

すべてクレジットカード払いにできたら管理が楽になりますが、金額が大きい保育料の支払いはクレジットカードでは出来ないことが多いでしょう。給料日と支払い日のズレと、現金払いとクレジットカード払いの混在が管理を一層難しくさせています。ETCの料金も利用したタイミングによっては翌々月の請求となるなど、家計管理の複雑さに拍車をかけてしまいます。

 

Aさん世帯の生活の苦しさは、運転資金としての貯金がないことが根本的な原因のひとつでしょう。

 

しかし、一度資金繰りの負のスパイラルに入ってしまうと、貯金を作ることは極めて困難になります。収入額と支出額、支払日の3つが同じままでは「自転車操業」を繰り返すだけです。

 

AさんとBさんは医療保険も解約しているため、もし1ヵ月入院をしたら家計破綻に繋がりかねません。自動車保険も解約しているので、もし車をぶつけて50万円の修理費が必要になったとしても支払うためにメンテナンスローンを利用することになります。その結果さらに家計は苦しくなります。

 

では、Aさんが貯金を作っていくためにできることはなにがあるでしょうか。