就活のはじめでは、「こういう企業や商品、サービスって何となくいいよな」という自分の「興味・関心」を知っておけば十分。自己分析は深くやり過ぎずに、適当に、サラッと60分で切り上げてください…。そうアドバイスするのは、10回転職したキャリアコンサルタント・森田昇氏。同氏は、ここまで失敗を重ねた人間だからこそ、避けるべき「就活で失敗する方法」を伝えられるはずだと自負します。森田氏の著書『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
「就活生へ。『自分史』作りは絶対するな」…キャリアコンサルタントからの衝撃アドバイス【就活の技法】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「普通の就活生」に自分史やモチベーションチャートは不要

■企業選びの選択肢を狭める「自己分析のアリ地獄」

「今の自分を形成しているのは、あなたの過去の経験です。『就活の軸』を定めるためにも、生まれたときから今までの出来事を振り返り、自分に関するデータを『自分史』として書き出してみましょう!」という自己分析の王道、「自分史」作り(※図表1)は決してしないでください。無理に作成しようとすると、「普通の就活生」のほとんどは莫大な時間を投入した挙句、自己肯定感が下がり暗澹たる思いをします。

 

出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表1]自分史 出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

よほど学生時代に高い実績を残している、他人がおいそれと経験できない体験をしている就活生は10%もいません。一人で「自分史」作りに没頭すればするほど、「なんて自分は平凡でありふれた人間なのだろう」と、落ち込むだけです。私は落ち込むどころか絶望しました、何も成し遂げたことがない自分に。

 

「自分史」作りに熱中すると、企業選びの選択肢が減っていきます。自分自身の過去基準に基づいた志望業界や職種、企業、仕事しか考えられなくなるからです。就活開始直後に持っている業界や企業に関する情報は本当に少なく、ほとんどの就活生は普段の生活でお世話になっている有名なtoC(対消費者)企業しか知りません。多くの就活生の「自分史」イベントには、優良企業の多いtoB(対企業)企業は登場しませんので、就活の選択肢が相当狭まります。これは本当にもったいないことです。

 

たかだか20年ちょっとの過去に囚われていると、今後の未来で変化する自分が想像できなくなりますし、現在の自分が持っている「興味・関心」すら過去の経験と整合性を取ろうとして、揺らぎます。そんなものを企業は求めていませんし、害悪でしかありません。これは「自分史」の次に作成を勧められることが多い「モチベーションチャート」にも言えることです(※図表2)。

 

出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]モチベーションチャート 出所:森田昇著『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

「過去の自分の体験を時系列ごとに振り返り、そのときのモチベーションを書き出しましょう。どんなときにモチベーションが上がり、どんなときに下がるのか、その共通点から自分の価値観を見出そう」も、過去の深堀りでしかありませんし、「自分史」と同じように、実績重視・体験重視となるので作成するのがしんどいです。

 

企業選びにおいて、自分の過去経験と無理に紐づけすることはありません。自分の可能性を狭めてしまう自己分析のアリ地獄には、決してハマらないようにしてください。

はじめは「興味・関心」から動く

■「興味がある商品・サービスに関わっている会社」や「先輩が入社した会社」など、30社をリスト化

極論してしまうと、就活における自己分析とは「ES作成や面接対策でのネタ探し」でしかありません。

 

「自分史」で幼少期から大学生まで、どんな経験や出来事があってどんな感情を覚えたのか。「モチベーションチャート」でこれまでどんな困難があってどう克服してきたのか。遊びでも学業でも部活でも友達関係でも恋愛でも趣味の世界でも何でもいいからたくさん書いてみて、といったらどうでしょうか? 恐らく20個以上は出ると思います。

 

それくらい、私たちの「興味・関心」は簡単に移り変わります。特に1年間の就活では何回も「興味・関心」が変わっていきますし、それでいいのです。まだ志望する業界や企業が定まっていない就活のはじめから、自己分析を深く行う意味はありません。

 

また、自己分析は1回やったら終わり、にするものではありません。就活を進める中で、志望する業界や職種、企業の情報量が蓄積されていくと、企業選びの視点が自然とアップデートされていきます。就活における自己分析は「ES作成や面接対策でのネタ探し」なので、磨かれた企業選びの視点に対応すべく、頻度を高めて徐々に精度を上げていけばいいだけです。

 

「何となくこの会社は良さげかな?」

「そういえば先輩が入社したのって、この会社だっけ?」

「いつも使っているあの商品を作っているメーカー、この会社なのか?」

 

といったレベルでいいので、この時点ではリスト化した30社の企業に最低限「興味・関心」を持ってください。「興味・関心」のない業界や職種は就活の対象外となってしまいます。それでは生涯収入最大化の就活が難しくなります。

 

日本には、大多数の就活生が知らない、知ることのない優良企業が本当にたくさんあるので、そういった企業と出会える接点を、この時点でたくさん作っておきましょう。

 

 

森田 昇(もりた のぼる)

キャリア開発・DX講師、ITベンチャー企業の外部人事部長

 

キャリアコンサルタント、中小企業診断士。一般社団法人リベラルコンサルティング協議会代表理事、日本能率協会マネジメントセンターパートナー・コンサルタント。

IT業界20年の経験と転職10回したつまずきを基に、キャリア開発・DXの研修講師として100社以上に研修を実施、再就職支援セミナーをハローワークで100回超開催。キャリアコンサルタントとして学生含めて約2,000人の転職と再就職・就活支援を行う。またITベンチャー企業の外部人事部長として新卒・中途採用に携わる。

著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社、2020年)、『年収300万円から脱出する「転職の技法」』『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(どちらも日本能率協会マネジメントセンター)がある。