自己PRを「〇〇力」でまとめてはいけない
前回はES3点セットの1つ、「学生時代に力を入れたこと(略称:ガクチカ)」について具体的に解説しました。今回はES3点セットの2つめ、「自己PR」についてです。
自己PRとは、その名の通り自分のアピールポイントを訴えるものです。ガクチカが過去のエピソードに対して、自己PRは現在の自分が持っている、企業に評価されたい・活かせるものとしてアピールするものです。そのため、アピールポイントを論理的に説明できるよう、構文が決まっています。
【図表】の通り、PREP法というフレームワークを使います。自分の主張を伝えるのに社会人も良く使うフレームワークです。1つのアピールポイントを2つの視点から強調すると説得力が増すので、なるべくならガクチカと異なるエピソードで理由や具体的な取り組みを考えたいところです。
就活における自己PRには1点気を付けなければいけないことがあります。ズバリ、最初の結論であるアピールポイントを「〇〇力」でまとめてはいけません。「私のアピールポイントは〇〇力です!」だったり「私の強みは〇〇力があることです!」と断言するのは危険なので、極力控えてください。
入社前の就活生に「仕事で活かせる強み」はまだない
危険な理由はこれです。どんなに自己分析を深く行って気付いた先天的・後天的な強みでも、親兄弟や先輩、教師や友達といった他者視点から認められた他己分析での強みでも、何なら弱みを反転した強みでも、学生の時点で自己認識できた強みなんて、体力以外は到底仕事に活かせるレベルにはないからです。働き方改革やデジタル技術の進展による仕事の質の変化で、今や体力もそこまで活かせる強みではなくなりつつあります。
ガクチカとして学業で取り組んだこと、部活動で掲げた目標、アルバイトで直面した課題、何なら遊ぶうえで感じた問題点、そういったことを乗り越えて得られた学びや能力は本当に尊いものです。アピールしないともったいないことも確かです。ですが、それらと仕事はまったくの別物です。レベルも違いますし、何より世界が異なります。強みとして通用しません。
異なる世界でも活かせる強み、業界や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上の「仕事をうまくやる力」に社会人基礎力、ポータブルスキルがありましたね。しかし、読んで字のごとく社会人の実務経験の中で取得・磨かれるものであり、学生のうちに身につけられるものではありません。
それに、強みと思っている能力が本当に志望する業界や企業の役に立つものなのかは、職種によっても配属先によっても、与えられた仕事によっても変わりますから、就活の時点では採用担当者にも面接官にもわかりません。
仕事に活かせるレベルまで達していない、本当に活かせるのか不明な能力をアピールしてしまうと、書類選考では「言語化力が低い」とお見送りに、面接では厳しく突っ込まれるのがオチです。新卒一括採用の就活では、現時点で就活生が保有している強みは評価されません。ガクチカで確認されているものと同様、自己PRも伸びしろ優先だからです。
以上のことから、自己PRで訴えるアピールポイントは決して強みではなく、ガクチカでの学びによって得られた心構えや態度を表す際の表現、仕事に対する「〇〇する姿勢」が適しています。ぜひお使いください。
仕事に対する「〇〇する姿勢」一覧
自己PRでアピールすべきは強みではなく、仕事に対する「〇〇する姿勢」だ。それはわかった。でも、「〇〇する姿勢」が思いつかない! 助けて! という人は次の例を参考にしてください。強みだと「〇〇力」と「力」を付けて極力名詞にすると伝わりやすいですが、就活においてアピールすべきは姿勢なので「力」は使いません。
すぐにESや面接で使えるよう、「〇〇する姿勢」をそれぞれ「能動的(~する)」、「受動的(~な)」、「ビジネス的(~を試みる)」、「対人的(~を心掛ける)」の4方向から10個ずつ例示しますので、アピールしたい心構えや態度がどの姿勢に当たるのか考えてみてください。4方向から1個ずつ、合計4個を自己PR内で訴えられると、様々な角度で自己分析できていると採用担当者や面接官から評価されますよ!
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★能動的(~する)
行動、努力、集中、工夫、実行、継続、創造、決断、持続、学習、等
★受動的(~な)
堅実、慎重、柔軟、謙虚、まじめ、丁寧、主体的、効率的、積極的、自発的、等
★ビジネス的(~を試みる)
論理的思考、課題解決、発信、交渉、情報活用、データ分析、状況把握、トラブル対応、言語化、文章化、等
★対人的(~を心がける)
協調、傾聴、気遣い、感謝、承認、共感、受容、信頼、信用、関係構築、等
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仕事に対する「〇〇する姿勢」からは、コミュニケーション、リーダーシップ、プレゼンテーション、マネジメント等のカタカナ用語は敢えて外しました。もはや日本語英語となっているカタカナ用語ですが、どれも幅広い意味や解釈を包含している言葉なので、自分らしさを表す単語としては解像度が低くなるからです。
たとえば「私のアピールポイントは誰とでも『コミュニケーションが取れる姿勢』です」だと、それは「対人での情報共有や意思の疎通をとる姿勢」という意味になるので、情報共有力なのか意思伝達力なのか、そのための会話力や対話力、交流力といったものなのか、それともすべてなのか判別できません。伝える力だとプレゼンテーションが入ってきますし、聴く力や理解する力、話させる力だとフォロワーシップという言葉のエッセンスも入るでしょう。
同じように、「私の特徴は『リーダーシップを発揮する姿勢』です」だと、それはチームメンバーへの指導力なのか統率力なのか、はたまた影響力なのか、それともすべてなのか判別できません。人間力かもしれませんし、人柄や人望といったもの、目標設定力や達成力もリーダーシップの構成要素となりますよね?
カタカナ用語は便利ではありますが、正直わかりにくいですし、伝わりづらいです。
自分らしさを言語化するには、日本語での表現を心掛けてください。これは外資系企業にも同様で、英語等の他言語指定面接でない限り、母国語をどれだけ操れるのかが評価対象となっているので、日本語でOKです。
自己PRで重要視されるのは「強み」ではなく「論理性」
自己PRで採用担当者や面接官がどこを重要視しているのかというと、強みではありません。アピールポイントに矛盾や飛躍がないかの「論理性」です。だから「〇〇する姿勢」で十分です。実際に、企業が新入社員に求める能力を確認すると、もう何年も「コミュニケーション能力」の一人勝ちだからです(※株式会社帝国データバンク 2022/9/12「企業が求める人材像アンケート」より)。
面接担当者の大多数は「最終的には、一緒に働きたいと思うかどうか」と本気で考えています。この背景には、新卒一括採用では「どの部門や部署で働くのか」が採用時点でわからない企業が多いために、「どこに配属してもうまくやれそうな人」を採用するのが合理的だから、との考えが色濃いからです。そのため、「コミュニケーション能力」以外にも「意欲的」や「素直」、「真面目」に「誠実」、そして「明るい」といった人柄に関する事項が上位に並んでいます。
一般的に採用担当者や面接官は、自己PRでは「性格や考え方などの人柄」と、「自社で活かせる強みがあるか」の2点について「論理性」を持って伝えているか、を確認しています。しかし、実際には前者が重要視されるもので、後者は伸びしろ確認でしかありません。企業が見ているのは「あなたが企業に売上や利益で長期的な貢献ができるか」だという言説も根強くありますが、これも人柄・伸びしろ重視と矛盾はしません。
どんなに強みや実力や実績があっても、それを組織内で発揮できるかどうかは「一緒に働いてもいいと思える人柄なのか」にかかっています。これこそ、就活生の皆さんに自己PRしてほしいものです。
自己PRの例文はネット検索すればたくさん出てきますし、一人ひとり違うのが自己PRなので、本稿ではあえて例文を紹介することはしません。「自分の性能」ではなく、「自分が入社したらこのように貢献する」と、企業への活かし方をアピールしてください。これだけで内定率がグッと上がります。
自己PRもガクチカと同様、自分を知ってもらうツールです。押さえるべき点、避けるべき点もガクチカとまったく同じです。大切にするのはあくまでも自分らしさ。
「それぞれの企業にどんな強みが刺さるのか」という逆算よりも、「どんな姿勢が刺さる企業の内定が欲しいのか」。生涯収入最大化のためには、自分らしさの解像度を上げて、自分のいいところをアピールして、それを「いいね!」と思ってくれる企業の内定を目指してください。全ての企業から内定を得る必要はないのですから。
森田 昇(もりた のぼる)
キャリア開発・DX講師、ITベンチャー企業の外部人事部長
キャリアコンサルタント、中小企業診断士。一般社団法人リベラルコンサルティング協議会代表理事、日本能率協会マネジメントセンターパートナー・コンサルタント。
IT業界20年の経験と転職10回したつまずきを基に、キャリア開発・DXの研修講師として100社以上に研修を実施、再就職支援セミナーをハローワークで100回超開催。キャリアコンサルタントとして学生含めて約2,000人の転職と再就職・就活支援を行う。またITベンチャー企業の外部人事部長として新卒・中途採用に携わる。
著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社、2020年)、『年収300万円から脱出する「転職の技法」』『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(どちらも日本能率協会マネジメントセンター)がある。